葵side

住宅街に程近い山沿いのコースを割と控えめなペースで走る颯たち。

夏目前の今の時期、頬に当たる夜風は心地いい。少し大きな声を張りながらみんなと話していたけれど、ふと後ろから耳慣れたエンジン音が近づいてくるのに気が付いた。

そのバイクは私と颯の横を颯爽と通り過ぎていく。

その時少しこちらを振り向いたその人と、一瞬だけ目が合った、ような気がした。


「うそ...」


なんで、ここに...。だめだ、慌てちゃだめ。みんなに悟られるわけにはいかないんだから。

動揺を何とかしたくて、ほんの少し、颯の腰に回した手を強める。

幸か不幸か、颯は真とちょっとした言い合いをしていて、さっきのバイクのことを気にしてはいないようだった。

それからどういう道を走ったか、どんなことを話したのか、よく覚えていない。気が付いたら開けたパーキングで一旦休憩をしようとしているところだった。


「葵ちゃん、疲れてない?大丈夫?」


由希先輩が自販機で買ってきてくれたミルクティーを渡してくれる。


「大丈夫です。寧ろ風が気持ちよかったし、楽しかったです」

「そっか。よかった」


柔らかく微笑んでくれる先輩に、いくらか心が落ち着いた。せっかくだから景色でも眺めてみようかと設置してある小さな展望台の近くに寄る。

その時、ポケットの中の携帯が小さく鳴った。