昨晩、あの後みっともなく泣き腫らした私の顔は最悪で、
化粧もいまいちきまらなかった。


明らかに何かあっただろうと分かるような顔をしていると、自分でも思う。


会社に早く着いたのでトイレに逃げ込み
食い入るように鏡を見つめてみても、何も変わらない。


みんなになんて説明すればいいの。





仕方なくトイレから出ると、
総務部のブースの前で中を窺う人がいた。


背が高くてすらっとしている男の人。


なんだろう、うちの部に何か用事かな?


「あの……」

 
おずおずと声をかけると、その人はこちらを振り返った。


鼻が高くて、切れ長の瞳をしている。
その瞳が私を捉えた。


「ああ、おはようございます。
 ええと、総務部の方ですか?」


「あっ、はい。そうです。
 おはようございます。総務の一ノ瀬です」


ぺこりと頭を下げると、胸元に目がいった。
営業課のネームをぶら下げている。
営業さんか、この人。


「営業の神崎です。朝イチの会議で使う資料が
 総務にあるって聞いたから早めに確保しておこうかなと思って来たんだけど、
 さすがに早すぎた。誰もいなくて」


「そうなんですね。どうぞ、入ってください」


「どうも、助かるよ」