「さ、さぁ?どうしてそう思うの?」


「フランスから帰ってきてから、会話が少なくなってるの。
 それに、デートに誘うと断られるし。
 今日だって遅くなるって言ってたけど、
 裏で何してるか分かんないし」


「それは、心配だね……」


体を小さくして、やっとのことでそう答えた。
今日は私のところに来ることになっている。
仕事でもプライベートな友達との遊びでもなく、不倫のために。


「会社の女かな?気を付けて見ているつもりなんだけど。
 危ない関係になるような人、いないと思うんだけど……
 会社の外なのかな」


そこで私という可能性が七海の中にないのが救いだった。


私が堂々としてさえいれば、バレることはない。
大丈夫よ。ここはやり過ごせ。


「気にし過ぎだよ。葛城さんはちゃんと七海のことが好きだから、
 大丈夫だよ」


「そう思う?ならいいんだけど……
 まぁ、今日帰ってきたらたまには一緒にお風呂でも入ろうかな。
 聞いてくれてありがとう」


吐き気のする惚気を聞いて、顔をしかめる。
そんなこと、葛城さんがするはずない。


そう思って七海にバレないように柔く笑んだ。








七海と別れて、私は電車に揺られた。
会社から私の家は2駅離れた所にある。


車内はいつも混んでいて、ぎゅうぎゅう詰めになる。
いつもはそれが嫌なのだけれど、今日は浮かれているからか、
どうってことなかった。


流れていく景色を眺めながらこれからのことを考える。
とびきり美味しい料理を作らなくちゃ。




電車を降りて最寄りのスーパーに寄った。
作るものは決まっているから、必要なものだけをカゴに入れてレジまで行く。


ここのスーパーはエコバッグを持参すると
総額5パーセント安くなるから、仕事帰りでもいいように
カバンの中にエコバッグを忍ばせている。


今日も値引きされていい買い物をしたと思う。
レジを通した商品をバッグに詰め込んで家に帰った。