午後の仕事は楽なものばかりだった。
七海と一緒に資料を綴じたり、印刷をしたり、会議室の確保をしたり。
時折雑談を交えながらのんびりやっていた。
相変わらず七海は人の悪口ばかり。
でも私は、その悪口を黙って聞いている方が楽だった。
だから笑ってやり過ごす。
同調もせず、否定もしない。一番ずるいやり方でしのいでいる。
何故私がこんなに七海にひっついているのか。
それは、会社に入って馴染めなかった私と
仲良くしてくれたのが七海だったから。
悪口を言うことと私を見下すことを除けば、七海はいい子だから。
七海に頼っていれば失敗はない。
そう思うから、結局のところ離れることが出来ないのだ。
「奏音、今日もお疲れ様」
定時になって、帰り支度を始めた七海に声をかけられた。
時計を確認して仕事が終わったのだと知る。
特にやりかけの仕事もなかったから、カバンを持って立ち上がった。
「下まで一緒に行きましょう」
「うん。そうだね」
総務部は5階にあるから、
普段はエレベーターを使う。
七海と一緒にエレベーターホールまで行き、下のボタンを押した。
七海からバラの香りが漂う。
暇さえあればあのクリームを塗っているから、
香りが切れることはない。
でも、今日はつけすぎなんじゃないかなと思うくらい、
その香りが濃かった。
そのことを伝えると機嫌が悪くなるだろうから、
心の中で思っていることにしてエレベーターがくるのを待った。