七海は、葛城さんの周りに集まる女子社員を
ギラギラした目で監視している。


俗に言うイケメンの葛城さんはモテるから、
変な虫が寄り付かないかチェックしているのだ。


仕事を一緒にしなければならない女子社員にも、
執拗な嫉妬をする。
だから常に七海の口からは別な女の子の悪口が飛び出てくる。


それは先輩社員でも容赦ない。


でも、唯一何も言われないのが私。
それは私が七海の親友という肩書きを持っているからではない。


私(なんか)が葛城さんとどうこうなるなんて思っていないから。


どこまでも見下される私は、
プライドがない女として社内に広まっている。


こんなに地味な私でもこうして噂になるのだから、
世の女の子は大変だわ。


七海にロックオンされていないから不倫が出来ていると言っても過言ではない。
だからもし社内で一緒にいるところを目撃されても、
ただ仕事をしていただけと納得されるでしょう。


そう考えると、私は実にいい立ち位置にいる。


私はただ、何もいらないから葛城さんに愛されていればそれでいいのよ。
それが私の幸せだから。






ブーっと携帯のバイブ音が鳴った。
画面には葛城さんの名前が表示されている。




【七時半に奏音の家に行くよ】




私の口角がゆるゆると上がる。
随分と緩んだ表情をしていることに気付いて、
咳払いをして、隣にいる七海に見えないように携帯を傾けた。


そしてゆっくりと返事を打つ。



【葛城さんの大好きな、肉じゃがを作って待っています】



送信して向かいのデスクに座る葛城さんをちらりと見やると、
葛城さんも私を見ていた。
そして前髪をかき上げてみせた。


葛城さんが前髪をかき上げる時は何か決まって
大事な話があるという合図だ。


何の話をされるのだろう。
まさか、七海と別れて私と結婚するとか?


なんにせよ、いい話だというのは分かっている。


早く仕事終わらないかな。
急いでスーパーに寄って材料を買わないと。