神崎さんはテーブルに置かれていた私の手を取ると、静かに言った。
「すみませんは禁止。
こういう時はなんて言えばいいと思う?」
「えっ、その……なんて言ったらいいか……」
正直に言うと【すみません】しか出てこない。
いくら考えても謝る言葉しか浮かばないので、
頭を悩ませていると、彼はクスリと笑った。
「結構簡単だと思うけどなぁ。
いい?一ノ瀬さんはどうしたいの?」
「えっ?どうって……」
「その男と報われない恋をしていて、振られたわけだ。
まだ、その男に執着したい?」
神崎さんの言葉の意味を必死で考える。
私は、いつまでも葛城さんを思っていても
葛城さんと幸せになれる未来があるわけではないことを知った。
ならば早く忘れて次の恋をしたほうがよっぽどいい。
そういうことを言っているのだろうか。
「そ、その彼のことは……早く忘れたい、です」
「だよね。じゃあ、何て言えばいい?」
「えっ?」
「さっきも言ったでしょ。俺は君に何を言った?」
さっき?と首を傾げる。
ええと、確か「すみません」と言ったのは、
会社に秘密にしてほしいと言った時だった。
彼は私に、言ったんだ。
「お、お願い……ですか?」
「ん。そうだね」
彼が私の指に自分の指を絡める。
その触れられている指の先から溶けていくような感覚に陥った。
「お、お願い。忘れさせてください」