美奈ちゃんって誰だろと思って後ろを振り返ると、
さっきの店員さんがにこやかに駆け寄って来た。


ああ、この人美奈さんっていうのね。


それにしても、また神崎さんに決めてもらった。


迷っているところにおすすめを言われたら決めやすい。
おかげで待たせることもなく、自然に決めることが出来た。


神崎さんはエスパーなのかな。
私が困っていると、スイっとスムーズに手を差し伸べてくれる。


本当に不思議な人だ。
どうしてこんな完璧な人が、私なんかを……。


「ねぇ、その浮気していた彼とは、
 いつから付き合っていたの?」


運ばれてきたお水に口をつけた途端、
そんなことを聞かれて大げさにむせてしまう。


ゲホゲホと咳き込みながら神崎さんを見ると、
ニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。


優しいと思っていたけれど、意外と意地悪なのかしら。


「さ、3か月前から……です」


「どっちから告白したのかな」


「わ、私からです」


「ふうん。浮気だって分かっていたのに、言ったんだ」


「そ、そんな。意地悪しないでください」


思わずそんな言葉が口から零れる。


悪いことをしておいて意地悪だなんて言う私が間違っている。
でもそんなこと気にもせずにその言葉が出た。
私って、自分勝手だ。


「あはは。別に意地悪をするつもりはなかったんだけど。
 ごめんね。でもさ、付き合っているわけだから、
 前の男のことは気になるんだよね」


それもそうか、と思って神崎さんを見上げる。
彼はコップを傾けて水を飲んでいた。


ふと、喉元に目がいく。
喉ぼとけの辺りを見ていると、彼が水を飲むのに合わせて上下に動いた。


それすらも妖艶に思える。
かぁっと顔が熱くなって、慌てて手で押さえた。


「一ノ瀬さんはまだ好きだもんな。その男のこと」


「そ、それは……」


急に罪悪感の波が押し寄せてきて俯く。


私って最低だ。
葛城さんを忘れていないのに神崎さんとお付き合いするなんて。


忘れるために付き合っていると言ってしまえば
それまでのような気もするけれど、
これじゃあ、神崎さんに失礼だ。


「す、すみません」


「あっ。それ」