仕事は意外とあっさりと終わった。


七海もいたからか葛城さんは何も言ってこなかったし、
ただの普通の上司と部下の関係で事なきことを得た。





あの後私は大事なことに気付いてすぐに神崎さんにメールを入れた。


会社で会うのはまずい。
葛城さんに知られたくないという理由から、
お付き合いを始めたことは内緒にしてほしかった。


神崎さんは了承してくれたからよかったと思ったのだけれど、
駅で待ち合わせをしたら不機嫌そうな神崎さんがやって来た。


「お、お疲れ様です」


「うん、お疲れ」


「あ、あの……なんだか
 不機嫌なような気がするんですけど……」


「うん。理由を聞いてないなと思って。
 会社に内緒にするって言うのは不本意なんだけど?」


やっぱりそれか……。
だってそれ以外に不機嫌になる理由が分からない。


内緒にしてっていうのは変だよね。
隠すと何かやましいことをしているみたいだもん。
でも、葛城さんに知られたくないという時点で
私はやましいと思っているのかもしれない。


「すみません。恥ずかしいので、
 ちょっと公にしたくないというか……
 仕事もやりづらくなったりしないかな、なんて思った、り……」


言い終わるか終わらないかのうちに、神崎さんの指が口元に触れた。
口を噤むと、神崎さんは片目をつむってみせた。


「そういう時は、すみませんじゃなくて、お願いするんだよ」


「お願い?」


「そう。可愛くお願いしてみてよ。そしたら折れてあげる」


可愛くお願いって、どうやるの?
普通にお願いするんじゃダメかな?


分からないで神崎さんを見上げると、
彼は早く、と言うように目で訴えかけてきた。