「だったら、俺と恋愛すればいいよ。
 そのうちその男のことは忘れていくことができる。
 俺なら、泥沼にはまった君を救うことが出来るよ」


「そ、そうでしょうか。
 私は、彼のことを忘れられるでしょうか」


「うん。君が俺だけを見ていれば、必ず忘れられる。
 それにね、俺は独占欲が強いから」


神崎さんはそこまで言うと、一瞬のうちに耳元に顔を近づけて、
そっと囁くように言葉を放った。







「君のこと、俺でいっぱいにしてあげるよ」







心地よい低音が響く。
すぐに顔が熱くなるのを感じた。


そんなこと、葛城さんにも言われたことない。


ドラマや少女漫画でしか聞くことの出来ないような言葉に衝撃を覚える。
これは、神崎さんだから映える言葉だろうと思った。


そこらへんの普通の男の人が言ってもきゅんとくることはないし、
むしろ鳥肌も立ってしまうほど嫌悪感を覚えるかもしれない。


この人はよく、私なんかにそんな素敵な言葉をくれたなぁ。


出会ったばかりだけれど、彼は私をどう思っているんだろう。
恋愛対象に見られるのかな。


「返事は?」


「うっ、あの……よ、よろしくお願い、します……」


「うん。安心して。君は最高に幸せになれるから」


自信たっぷりに神崎さんが言う。
そして彼は、私のおでこにキスを落とした。


心臓がバクバク鳴っている。
おでこに全神経が集中した。


これは、夢?夢でも見ているの?
まさか私が、こんなかっこいい人とお付き合いすることになるなんて。


「よし、お昼休み、まだ30分残っているね。行っていいよ」


「えっ?お仕事は……」


「それは口実。君が困っているように見えたから、
 連れ出しただけ」


そうだったのか。本当に仕事があるのかと、今の今まで思っていた。
そっか、仕事はないんだ。


「あっ、携帯、今持ってる?」


「は、はい。持っています」


「貸して」


ポケットから携帯を取り出して神崎さんに渡すと、
彼は手早く手を動かして、数分もしないうちに返してくれた。