しばらくデスクに着いてぼうっとしていたら、
次第に人がちらほら出社してきて、なんでいるんだと驚かれた。
七海が出社してきた時、葛城さんも一緒に出社していて、
ぼうっとしていた意識がはっきりしてきた。
昨日の今日でとても気まずい。
「奏音。おはよう。あら、泣いた?」
「おはよう、七海。
ちょっと昨日観た映画が感動して……」
「聞いて。今朝一緒に行きましょうって言ったら、
久しぶりにOKしてくれたの。
やっぱり私の勘違いだったみたい」
「そ、そうなんだ。良かったね」
「ええ。ありがとうね、話聞いてくれて」
「うん」
無意識にぱっと葛城さんを見ると、
葛城さんもこちらを見ていた。
でももう、前髪をかき上げたりはしない。
やっぱり昨日の出来事は夢じゃないんだと思い知る。
もう私は「一ノ瀬」としか呼ばれない。
ただの部下なんだから。
午前中は昨日と同じで簡単な仕事を任されていた。
ちょうど葛城さんと仕事をする案件は既に終わっていて、
しばらくはありそうもない。
タイミングが良かったと胸をなでおろした。
相変わらず七海とお喋りしながら仕事をしていた。
それでも気になってしまうのは葛城さんで、
いつも以上に意識してしまっていた。
もう、最悪ね。
未練たらたらで情けない。