キイっと扉を開けて中に入ると、
神崎さんは資料棚の方へつかつかと歩み寄って行って、資料を探し出した。
私はデスクに着いて荷物を整理し、それを眺めていた。
営業さんは大変だなぁ。
暇なしって言うよね。
前に営業課長の手帳を見せてもらったことがあったけれど、
予定がびっしり書かれてあったのを思い出した。
この人も、きっと手帳はびっしりと埋まっているのだろう。
よく仕事出来るなぁ。
私なんか、総務の簡単な仕事だけで手いっぱいなのに。
「ねぇ、君。一ノ瀬さん」
「は、はい!」
「悪いけど、一緒に探してくれる?
部会資料③っていう資料なんだけど」
「わかりました」
総務の資料棚は沢山の資料が並んでいるから、
この中から探し物をするのは意外と困難なのだけれど、
私は幾度となくこの資料棚から資料を探し出してきた。
多分この人よりもそこは上だろう。
言われた資料を探していくと、
同じ題の資料が目に留まった。
「あっ、ありました!」
「どこ?」
「これですよね?」
資料を取り出して神崎さんに見せると、
満足したように頷いた。
「そう、これだよ。良かった。ありがとう、一ノ瀬さん」
「いえ、この棚の探し物は得意ですから」
なんて言って笑っていると、急に神崎さんの体が近くなって、
私のすぐ後ろの方に腕が伸びていた。
「えっ?」
「危なかった。資料が落ちそうに。
当たっていたら痛かったと思うよ」
「す、すみません!気付かなくて」
「いや、いいよ。悪かったね、探してもらって」
「大丈夫ですよ。私も早く来すぎて暇だったので」
愛想笑いで取り繕うと、神崎さんは私をじっと見つめた。
危ないところを助けてもらってこう言うのもなんだけど、近すぎる。
もう落ちかけていた書類は元に戻したのに、体は全然離れない。
ずっと神崎さんの胸元が目の前にある。
混乱して俯いた。