困惑していると、ビクターが珍しくうっすら笑みを浮かべた。

「俺はこの辺りの地理に詳しいですし、馬にも乗り慣れている。今から行けば、昼過ぎには帰って来れるでしょう。あなたがトーマスやララさんの気を引いていてくれれば、バレないように馬を繋ぎ、あなたのもとに果物を届けます」

 悪い話ではない。むしろ、この塔を離れずに果物を手に入れるにはこの方法しかないように思えた。

「それに、美しいあなたをひとり荒れ地に放り出せば、どんな輩に狙われるか分からない。そんなことを、俺が許すとお思いですか?」

 若干戸惑いつつも、アンジェリ―ナはビクターに向かって頷いてみせる。

 アンジェリ―ナの肯定の返事を受け取ったかのように、ビクターが口の端を上げた。

「でも、果物を欲しがる理由を聞かないのですか?」

「聞きません。愛するあなたが果物を欲しがっている。それが俺の行動の全てです」

 情熱的な眼差しでそんなセリフを惜しげもなく吐く彼は、相変わらずデレが濃い。

(でも、この先も何かと役に立つかもしれないわ)

 アンジェリ―ナは、ビクターに対する考えを少し改める。

 見送るアンジェリ―ナを何度も嬉しそうにチラチラと振り返りながら、宵闇の中、ビクターは颯爽と馬に跨り塔の外へと消えて行った。

 そして約束通り、昼過ぎになって、大量の果物を袋に入れてアンジェリ―ナのもとへと戻ってきたのである。