「誰が、買いにいけないと言いました?」

「え?」

 驚いたアンジェリ―ナは、暗がりで微かな光を宿しているダークブルーの瞳を見つめる。

「買いに行っても、いいのですか?」

「約束したではないですか。あなたのやることなすこと、一切口出ししないと」

(そういえば……)

 あのときは返事を待たずにその場を離れてしまったが、ビクターの耳にはしっかり届いていたのだ。そして、覚えていてくれた。

「ですが、あなたには行かせません。俺が行きます」

「ビクター様が、ですか?」

 はい、と彼はしごく真面目な顔で頷いた。

「果物は、この辺りでは手に入りません。隣町まで行かなければ無理でしょう。隣町まではかなりの距離だ。あなたの細い腕で手綱を握り続けるのは限界があります。それに、この辺りの地理に疎ければ、二・三日はかかることも考えられます」

「二・三日……」

 それは、どう考えてもまずい。ララは大騒ぎするだろうし、監視人であるトーマスは、城にアンジェリ―ナが脱走したと伝えるだろう。この塔が脱走可能なことが分かれば、今度は幽閉場所を変えられるかもしれない。