逃れようがないほどの現行犯である。だが、まさか馬をちょっと借りて果物を買いに行こうとした、とは言いにくい。

 アンジェリ―ナは、幽閉中の罪人なのだ。

「う、馬を見に来ただけです……」

「こんな夜中に?」

「馬を愛でるのに、時間は関係ございません」

 暗がりで、ビクターに射るように見られているのが分かる。

 キャラ崩壊中の後付けキャラではあるが、さすが王宮騎士団の団長だった男だ。背の高さもあって、近くにいると背筋を冷や汗を伝うような威圧感がある。

「果物を買いに行こうとされていたのですね」

 沈黙のあと、不意にビクターが言った。

「どうして、それを……?」

「昼に、ララさんが愚痴を言われていましたから。『こんな辺鄙な場所で果物を買えだなど、アンジェリ―ナ様は無茶が過ぎますわ』と」

 完全に、バレていた。

 腹をくくったアンジェリ―ナは、踵を返すことにする。ひとまず、この作戦は失敗だ。

 ところが、馬から離れようとしたアンジェリ―ナの腕を、ビクターがガシリと捉えた。

「どうして帰られるのですか?」

「どうしてって、見つかってしまった以上、果物を買いに行けないからに決まっているではないですか」