次期王妃として確固たる淑女教育を受けてきたアンジェリ―ナは、もちろん乗馬もできた。

 王宮の余興の際、幾度かスチュアートをはじめとした数人の貴族とともに遠乗りに出たこともある。無駄に鞭を振るって馬を怒らせるスチュアートよりも、ずっとうまいと自負している。

 アンジェリ―ナは、馬の手綱に手をかけた。すると。

「こんな時間に、お出かけですか?」

(……きゃっ!)

 突如背後から声が聞こえ、驚いたアンジェリ―ナは大声を呑み込む。ここは、監視小屋のすぐそばだから、騒ぐとトーマスが起きかねない。

 振り返りランプで照らせば、いつからそこにいたのか、ビクターが立っていた。

「……ビクター様、なぜこちらに?」

 アンジェリ―ナを見るなり顔を赤らめるおきまりの仕草をひと通り終えたあとで、ビクターが言った。

「ご存知なかったですか? 俺はいつも、厩舎で寝ているのです。こいつが寂しがるもので」

 ビクターが鼻先を撫でれば、馬は愛しげに彼の掌にすり寄った。

「ところで今、俺の愛馬を盗もうとしていませんでしたか?」

 アンジェリ―ナは、ドキリと肩をすくませた。