スチュアートの恋情がエリーゼに傾いているのは見え見えで、アンジェリ―ナを見る人々の目が蔑みや憐れみに変わっていく。

「あのポンコツ王子、いったい何なんですか？　仮にもアンジェリ―ナ様という婚約者がいらっしゃるのに、今日の夜会もあの村娘を誘うとかあり得ないですよ！」

　アンジェリ―ナの豊かなローズレッドの髪に櫛を入れながら、今日も今日とてララは憤慨していた。

　ララは、実家のランバート公爵家から連れてきた、アンジェリ―ナ付きの侍女だ。

　茶色いボブヘアの小柄な彼女は、童顔のせいでアンジェリ―ナより年下に見えるが、実際は二つ年上だった。

　アンジェリ―ナが物心ついた頃から彼女の身の回りの世話をしてくれており、何でも包み隠さず話ができる、いわば親友のような存在である。

　スチュアートの正式な婚約者であるアンジェリ―ナは、王室に入るためのあれこれを学ぶため、一年ほど前からララとともにこの王城の一室に滞在していた。

「ララ。この国の王子であるスチュアート様のことを、そのように罵ってはいけないわ」