アンジェリ―ナをここまで連れて来た衛兵たちは、恐ろしい噂を思い出してか、アンジェリ―ナとララを馬車から降ろすなりそそくさと帰ってしまった。

「勝手に入っていいのかしら? 鍵って開いてるの?」

 不用心ねと思いつつ、ギィィィ、とさび付いた音を響かせ門扉を開く。

 コウモリがバサバサと羽音を響かせている庭を行けば、入口らしき重厚な石の扉の前に辿り着いた。

 扉の真横に、農夫のような恰好をした、髭面のおじさんが立っている。

「アンジェリ―ナ様ですね、お待ちしておりましただ。あっしは、この塔の監視人をしていますトーマスといいます」

 ふくよかな体系をしていて、福の神を彷彿とさせる温厚そうな笑みを浮かべており、禍々しい塔には明らかに不似合いだ。

「監視人とかいるんですね」

 アンジェリ―ナに、ララがそっと耳打ちする。

「罪人が逃げ出さないように、見張る人がいるのは当然よ」

「それはそうなんですけど、なんかめちゃくちゃ頼りなさそうですよね」

 ブツブツと呟いているララをそのままに、アンジェリ―ナはトーマスに向けて自己紹介をした。