「ビクター様、お待たせいたしました! アンジェリーナ様のお支度も整ったところでございます!」

 ララが、跳ねるようにビクターを中へと迎え入れる。 

 アンジェリーナの近くへと歩み寄ったビクターは、姿見の前に立つ彼女を上から下へとゆっくり見下ろし、たちまちいつも以上に顔を赤くした。

「すごく、綺麗です」

「ありがとうございます……」

 ビクターへの恋心に気づいた今、アンジェリーナも素直に赤面する。

「行きましょう」

 厳かに差し出された、彼の男らしく節くれだった掌。

「はい」

 アンジェリーナは答えると、シルクのグローブをはめた手を彼の掌にそっと添えた。


 国内外の有力貴族を招き、宴の間で執り行われた立太子式は順調に進んだ。

 ビクター自らが王太子の立場に立つことを人前で宣言し、国王が厳かにそれを承認すれば、場内からは割れんばかりの拍手がわき起こった。

 騎士団長としてすでにその功績を広く認められている彼は、さっそく数多の人望を集めているようだった。

 祝賀会を兼ねた食事会が終われば、全てがお開きだ。

 ようやくのことで自室に戻ることを許され、アンジェリーナがくつろいでいると、おもむろに部屋をノックする音がした。

 湯浴みの用意をするため、ララは部屋を離れており、アンジェリーナは自らドアもとへ出向く。

「どなたですか?」

「俺です」