「アンジェリーナが不当に城に幽閉されてから、お前は実にいい動きをした。まずは彼女を気遣い、自分の身分を捨てて塔に赴いた。なんと慈悲深い男だと、私は感心したのだよ。今もこうして、誰もが傍観しているスチュアートの理不尽な行為に、ひとり果敢に立ち向かっている。それにそもそも、私は騎士団長としてのお前の采配には一目置いていた。それから、アンジェリーナ」

 急に話を振られ、アンジェリーナは我に返る。思いがけない話の流れに圧倒され、すっかり王宮ドラマの視聴者の気分になっていた。

「君も、実にいい働きをした。貧しい地域の人々に新たなる農作物の栽培方法を提案し、見事な芸術でラスカル大臣の心を動かしポルトス王国との友好条約締結にひと役買った。本当に素晴らしい」

 褒められても、アンジェリーナには何ひとつ実感が湧かなかった。

 アンジェリーナにとって、貧しい人々がどうなろうと、ポルトス王国とどうなろうと、どうでもいいことだった。彼女はただ、自分のためだけにネクラ趣味生活を満喫しただけなのだ。

「よって、スチュアート!」

 威厳ある王の声が、狭い室内に反響する。

「王位は、お前ではなくビクターに譲る!」

「ま、待ってください……!」

 スチュアートが、弱々しく王の足に縋った。

 だが王は彼を冷たく一瞥すると、「スチュアートを連れて行け!」と大声で叫ぶ。すると室外から雪崩のように衛兵たちが入り込んできて、彼を拘束した。

 ついでとばかりにエリーゼも捕らえられ、ふたりは「ええい、離せ!」「何するのよ、痛いじゃない!」としきりに悪態を吐いていたが、喚きながらもあっという間に連れて行ってしまった。

 ようやく静かになった部屋の中で、改めて王はビクターに顔を向ける。

「さて、ビクター。突然のことで困惑しているかとは思うが、お前はどう考えている? 私の望み通り、この国を引き継いでくれるか?」

 ビクターは一度瞳を伏せると、今度は力強く王を見つめた。

「国王陛下。失礼ながら、俺は正直、身分にも金にも政治にも興味がございません。俺の望みはただひとつ――」

 澄んだブルーの瞳が、アンジェリーナを真っすぐに射抜いた。

「――アンジェリーナ様。それだけです」