アンジェリ―ナは開かずの部屋に何を隠しているのか、気にはなるが確かめる勇気が湧かない。

 もとより、臆病な性分なのだ。そのためララは、ビクターをその気にさせて、一緒に部屋をのぞいてもらおうと企んでいた。

「でも、少し怖気づいてしまいますね」

「怖気づく? 最強の剣士と謳われたビクター様に怖いものなど、あるわけがないではないですか! つくづく、この塔に来てくださって良かったです。だって男と言えば、頼りないトーマスくらいしかいなかったんですから。周りも老人か子供しかいないし」

「ララさん、ひどいですだ」

 食堂に物資を運び入れていたトーマスが、ぐすんと洟を啜る。

 ビクターは表情を曇らせると、テーブルに肘をつき、考え込むように顎先に手をやった。

「もしかしたらスチュアート殿下のことがまだ忘れられず、こっそり姿絵を眺めていらっしゃるのかもしれません」

「スチュアート様の姿絵? いやいや、ないない! 絶対ないですから!」

 ララは、笑いそうになるのを必死にこらえた。

「スチュアート様の姿絵をダーツの的にしているならまだしも、眺めるなんてことはあり得ません!」