アンジェリ―ナのために、夜中から馬を走らせ、遠い隣町まで買い出しに行ってきてくれたのだ。トーマスやララに気づかれないよう段取りを組むのも、大変だっただろう。

 とことんまで利用してやろうと思っていたものが、同情心が込み上げる。

「ビクター様。お顔をお上げください」

 アンジェリ―ナの言いつけ通り、ビクターが顔を上げる。海のように澄んだブルーの瞳が、真っすぐアンジェリ―ナを貫いた。

「果物は必要ないのですが、お腹が空きました。その果物をララにカットしてもらっていただくことにします。よろし――」

 よろしければあなたも一緒に、と言いかけて、アンジェリ―ナは慌てて言葉を止めた。少しくらい同情はしても、心を許してはいけない。

 代わりに、ほんの少しだけ笑って見せる。

「アンジェリ―ナ様……」

 ビクターは、アンジェリ―ナの微かな笑顔に、呆けたように魅せられていた。

 それから顔を赤くし、ぎこちなく笑い返す。

 まるで少年のようなその笑みには、諸外国からも恐れられる剛腕騎士だったのが嘘のようなあどけなさが滲んでいる。