「十環!!

 私に挨拶もしないで出ていくなんて
 良い根性してるわね」


「……姉さん」


 階段の柱に背中をもたれさせ
 腕組みしながら俺を睨んでいる。


「あ~もう!!
 本当に見てられない!!

 お父さんも、お母さんも
 十環に言いたいことがあるんでしょ。

 十環の顔色伺ってないで
 自分の想い伝えなさいよね」


 その言葉を聞いても
 口を開かない父さんと母さんに向かって
 姉さんはマシンガンのように
 しゃべり続けた。


「お父さんも、お母さんも
 十環の好きなようにさせてあげるのが
 一番なんて言ってたけど
 それは違うでしょ?

 二人とも
 十環に出て行って欲しくないんでしょ?

 なんで十環に言わないのよ。

 今までだって
 十環の本当の親になりたいって
 何度も私に愚痴っていたのに。

 なんで本人に伝えないのよ」



「それは……

 十環くんの本当のお母さんは……

 私じゃないから……」


「は? 

 本当の母親って何?
 
 産んだかどうかってこと?

 そんなこと、関係ないでしょ!

 十環がこの家に来て、もう8年だよ。

 十環を育てたのは
 間違いなくお父さんとお母さんなんだから」


「小百合……」


「それに、十環!!

 8年も一緒にいて
 なんで気づいてあげられないのよ。

 お父さんも、お母さんも

 十環に受け入れてもらいたくて
 無視されようが、きつい態度とられようが
 必死に笑顔作ってるのよ。

 それもこれも
 十環のことが好きだからに
 決まってんじゃない。

 本当の親になろうと必死なの。

 十環が
 私たち家族の人生をぐちゃぐちゃにした?

 そんなわけないでしょ。

 私は嬉しかったんだから。
 十環みたいな弟ができたこと。

 だからさ……

 この家にいればいいじゃん……」