「俺……

 小学生の頃は
 いい子でいれば本当の母さんが
 帰ってくるって信じていて。

 淋しくても、笑顔で隠しているのに
 それでも俺を
 迎えになんか来てくれなくて。

 怒りとか、悲しみとか
 いろんなものが詰まった思いが
 閉じ込めきれなくなって、
 中1で爆発したんです。

 俺がこんなに辛いのは
 良い子でいれば母さんが迎えに来てくるって
 嘘をついた
 あなたたちのせいだって思っていました。

 でも……

 それは違うって
 心の隅でわかってはいたんです。

 母さんが迎えに来てくれないのも
 小1で俺が捨てられたのも

 俺が
 母さんに嫌われていたからだって。

 俺自身のせいなんだって。

 それなのに
 あなたたちに罪をなすりつけて
 酷い態度を取り続けて
 すいませんでした。

 俺のせいで、人生が狂わされたのは
 あなたたちなのに。

 姉さんと家族3人で
 もっと幸せな毎日を送れるはずだったのに。

 俺が転がり込んできて
 あなたたち家族の生活を
 ぐちゃぐちゃにしてしまった」



 冷静な自分は
 ちゃんとわかっていた。


 怒りの矛先を
 育ててくれた父さんと母さんに向けるのは
 間違いだって。


 一番裁かれなければいけないのは
 この家族の人生をめちゃくちゃにしてしまった
 俺自身なんだって。


 俺はこの家族を
 楽にしてあげなければいけない。


 俺が壊す前の幸せな家族に
 戻してあげなければいけない。


 そのために俺ができることは……

 一つだけ……



「今まで……

 お世話になりました」



 俺はその言葉を告げると
 二人の顔も見ないでリビングを出た。