父さんと母さんが
並んでソファに座ったので
俺はローテーブルを挟んだ
向かいのソファに腰かけた。
うつむいたまま
誰も声を発しようとしない。
コチコチと
時計の針の音だけが響く部屋。
重い空気の中
最初に口を開いたのは
父さんだった。
「あの言葉が……
十環くんをこんなに傷つけていたなんて……
本当にすまなかった。
十環くんが小1でこの家に来たとき
ここで笑って過ごしてくれたら
いいと思った。
安心させたいって思った。
だから
何も考えずに言ってしまった。
『良い子にしていれば
お母さんが迎えに来てくれる』って」
顔をゆがめながら
辛そうな表情の父さん。
父さんの言葉を聞き終えると
今度は母さんが口を開いた。
「私も最初は心配だったの。
十環くんが私たちのことを
家族として受け入れてくれるかなって。
それなのに小学校時代の十環くんは
淋しそうな顔なんて見せずに
いつも笑顔で。
私たちの言うことも文句ひとつ言わずに
素直に聞いてくれて。
だから
勝手に思い込んでしまっていたの。
十環くんは、もう
本当のお母さんがいなくても平気だって。
私たちのことを
本当の家族って思ってくれているんだって。
中学生になって
十環くんの態度が一変してからは
どうしていいかわからなくなってしまった。
十環くんが、何を思っていて
何が不満なのかも全くわからなかった。
どう接していいかも
わからなくなったの。
ごめんなさい。
小学生の頃から
十環くんはムリをして笑っていたのね。
そのことに
気づいてあげられなくて……」