「赤城くんと同じ中3男子よ。
 中学名は、この紙に書いてあるから」


「桃瀬って人は
 学園長のお知り合いなんですか?」


「私が勝手に知っているだけよ。

 十環くんに私の名前を出しても
 首をかしげるんじゃないかしら。

 でも、秘書が何度も、
 うちの学園に入学してって頼みに行っているの。

 毎回断られているんだけどね」

 
「それじゃ……俺が行っても……」


「赤城くんなら同い年だし
 心を開いてくれるかもしれないじゃない?

 あ、十環くんに会ったら言っておいて。

 この学園に入ってくれたら
 入学金も学費も免除してあげるって」


 どんな奴なんだろう……

 桃瀬 十環


 俺に頼み込んでまで、入学させたいって
 学園長にとってどんな存在なんだろう


「この封筒の中に
 十環くんの写真も入れておいたわ。
 住所を書いた紙も。

 個人情報だからなくさないでね。

 そうそう
 十環くんが見事この学園に入学してくれたら
 赤城くんの入学金と3年間の学費も
 タダにしてあげる」


「ほ……本当ですか?」


「もちろんよ。 

 私はどうしても
 十環くんをこの学園に招き入れたいの。

 あ、でももう一つ約束して。

 もしあなたがこの学園に入学できたら
 女子たちともめ事を起こさないこと」


 ニコニコが一瞬で消え
 学園長は鋭い瞳で俺をにらみつけると
 『男?』と思わせる
 ドスのきいた低い声で言い放った。


「女子ともめたら
 即効退学にするから」


 学園長の瞳が……

 怖すぎる……


 30年前にフラれた男性への怒りを
 俺にぶつけているかのように
 睨まれているんですけど……


 ここは穏便に
 この場をしのぐしかない。


 そうしないと
 首の皮一枚つながった俺の入学も
 ぶっとい斧を振り下ろされて
 一瞬で切られそうだから。


「わかりました」


 俺は、毎晩練習した面接スマイルを
 ここぞとばかりに披露し
 学園室を後にした。