「十環、びっくりさせて悪かったな」
「いつも、こんな感じなの?」
「まあ、
いつもはちょっと違うけどな……
親父さ、六花のことが好きすぎて
仕事から帰ったら
六花に抱き着きに行くし。
それは六花も
嫌じゃないみたいなんだけど。
たまにこうやって
六花が嫌がることを
やらせようとしたりするから
たちが悪いんだよな」
「でもさ、あの白いワンピース
一颯のお母さんに
着てもらえばいいだけじゃないの?」
「あ、まぁ、そうなんだけどさ。
母さん、もう亡くなってるから。
俺が小3の時に」
「え?」
一颯の口から出た
予想外の言葉。
何も考えずに
俺が口にしてしまった言葉のせいで
どよんとした空気が流れ出した。
どうしよう……
こういう時って
なんて言ったらいいんだろう……
「ま、母さんって言っても、
俺が4歳の時に親父が再婚をしたから
本当の母さんではないんだけどな。
十環、気を使わせて悪かったな」
「へ?」
「とりあえず、俺の部屋に行くぞ」
一颯はきっと
こういう空気になれているんだろうな。
そして
その重い空気を取り払う術も
身に着けている。
俺に向かって
太陽のように眩しい笑顔を見せてくれた時
「一颯ってさすがだな」と素直に思った。
それに引きかえ俺は
本当の母さんのことを聞かれたら
黙り込むことしかできない。
そしてまだ
ひきづり続けている……
親に捨てられた
あの日のことを……