「親父さ
 六花に母さんの服着させるのやめろよな」


「だってさ……

 昨日クローゼットを整理してたらさ
 出てきたんだよ。

 このワンピースはさ
 雪ちゃんと初めて……」


「もう、ワンピースのことはいいから。

 事務所にいる女の人にでも
 着てもらえばいいじゃん」


「嫌に決まってんだろ!!

 雪ちゃんのワンピースなんだぜ。

 りっちゃん以外には
 絶対に着せたくないし」


「六花、
 もう自分の部屋に逃げとけ。

 親父もさ
 こんなことやってる場合じゃ
 ないんじゃないの?

 依頼されたマイホームの図面
 期限が近いんじゃなかったのかよ」


「おお! そうだった!」


 一颯のお父さんは
 一瞬で仕事ができる大人顔になり
 俺にさわやかな笑顔を振りまいた。


「十環くん
 こんな家だけど、ゆっくりしていってね」


 そして階段を上って行ってしまった。


 そして六花ちゃんは一颯に向かって
 「ありがとう」と
 うつむきながらボソリとつぶやくと
 2階に消えていった。