どうせ不合格なんだ。
こんな空間から
一秒でも早く逃げ出そう。
そう思って
ドアノブに手をかけた瞬間。
「フフフ。気に入ったわ」
え?
学園長は
満面の笑みを俺に向けた。
「私、嫌いじゃないの。
面接のときに、仮面をとってくれる子って。
良い子ぶる子ってたくさんいるでしょ?
さすがに見抜けないもの。
たった数分の面接ではね。
でもね~ 困ったものよね~
赤城くんの顔を見ると
あの時の悪夢が蘇っちゃうのも事実なのよ。
ホクロの位置まで一緒なんですもの。
右の鎖骨にあるホクロがね」
しばらくの沈黙の後
学園長は瞳をピカリンと光らせた。
「じゃあ、こういうのはどうかしら?
私のお願いを叶えてくれたら
入学させてあげる」
なんだ?
お願いって?
もしや……
30年前にふった彼の代わりに
俺が学園長の彼氏になれとか?
想像するだけで
足の先から頭のてっぺんに向けて
体の震えが駆け上っていく。
ムリ、ムリ。
元モデルだけあって
アラフィフでも綺麗な人だとは思おうけど。
俺、
六花以外をかわいいなんて
絶対に思えないし。
思いたくもない。
だけど……
俺の入学がかかっているからな……
頭の中で
学園長と『付き合う』『付き合わない』を
天秤にかけて悩んでいると
俺の知らない名前が耳に届いた。
「ももせ……とわ……」
「え?」
「桃瀬 十環(ももせ とわ)を
この学園に入るように説得してくれたら
赤城くんの入学も認めましょう」
桃瀬……十環……?
だ……誰だ?