「男の人には微笑まないし
 目も合わせない。

 だから、十環が六花に挨拶しても
 無視されるかも」


「それくらい平気だけど。

 それって
 妹さんのもともとの性格?」


「……ち……違う。

 俺が……

 洗脳し続けてきた」


 洗脳??


『兄が妹を洗脳』って
 言っている意味が分からない。


「笑った顔の六花って
 本当にかわいいわけ。

 だからさ
 他の男たちに笑いかけたり
 してほしくなくてさ」


「一颯ってさ……

 恐ろしいことするんだね」


 俺が言い放った言葉に
 肩を落とした一颯。


 一颯はたぶん
 俺にわかってもらいたかったんだと思う。


 でも、俺にはわからない。


 だって俺……
 誰かを好きだって思ったことなんて
 一度もないから。


「十環、おまえさ
 綺麗な顔してグサッと刺さること
 平気で言うよな」


「俺はさ、
『洗脳する一颯の気持ちがわからない』って
 言うと思ったんだけど……

 さすがにそれを言ったら
 一颯が傷つくかなって
 思ってやめたんだけど」


「あ~~ 

 どっちも傷つくから!!

 十環になんか
 六花のこと話さなきゃ良かった!!」


「でもさ……

 嫌いじゃないかも……

 そういうこと言う奴……」


 俺がボソリと言った言葉を聞いて
 じわじわ笑顔が戻ってきた一颯。


 そして
 俺の横で微笑みながら言った。


「だと思った」


 一颯の無邪気な笑顔。


 俺の心の闇も
 全部ひっくるめて受け止めてくれそうな瞳。


 まぶしすぎて
 一颯に心を開いてもいいかもなと
 思ってしまう自分がいる。


 でも……まだ……

 一颯を完全に信じるのは……

 怖い……。