「このイヤーピースがついていたイヤホンを
 妹にもらったんだ。
 俺の今年の誕生日にさ」


「ふ~ん」


「でもさ気づいたら
 片方だけイヤーピースが無くなってて。

 すっげー探したんだけど
 見つからなくてさ」


「なんで、それが宝物なの?」


「俺の妹さ
 『六花(りっか)』って言うんだけど
 俺のこと大嫌いでさ。

 今まで俺の誕生日プレゼントは
 苦い抹茶ケーキと
 ちょっと特別な夕飯を作ってくれるだけ。

 物をくれるなんてなかったんだよ。

 それなのに今年は
 『欲しいって言ってたよね』って
 イヤホンをプレゼントしてくれてさ。

 俺さ、すっげー嬉しくなっちゃって。

 一人の時は
 そのイヤホンを付けて
 ずっと音楽聞いてたんだよね。

 それなのにさ……

 気づいたら片方だけ亡くなってた。

 すげーショックすぎて
 俺、電車で
 傷心日帰りの旅行にいっちゃったし」


「なんで……

 電車の旅?」



「俺だって、そんなのわかんないよ。

 気づいたら
 電車に乗り込んでたんだから」


「俺には姉がいるけどさ……

 誕生日にプレゼントとかもらっても
 嬉しくないな」


 十環が
 自分の家族の話をしてくれた。


 俺に少しだけ
 心を開いてくれた気がして
 その嬉しさで口が緩んでしまった。