「十環、中身って見た?」
「見てないよ。
人の物を
勝手に覗く趣味なんてないし」
「お前、結構真面目だな」
「見なくてもだいだいわかるよ。
指輪の箱に入っているものって言ったら
大好きな子とお揃いの
指輪とかでしょ?」
「はずれ。
十環、開けてみて」
「え?」
「だから
早く開けろって言ってんの」
俺の強めな言葉に
嫌々
指輪のふたを開ける十環。
目をぱちぱちさせて
固まっている。
「これって……
イヤーピース?」
そう、正解!
俺の宝物は
この赤いイヤーピース1個。
音楽プレーヤーにつなぐイヤホンの
シリコンみたいなカバー。
「指輪じゃなくて、がっかりした?」
「がっかりって言うよりは
ただのゴミにしか見えない……」
「は?
十環……
お前ってさ
綺麗な顔して悪魔みたいなこと言うんだな。
俺のすっげー大事な宝物見て
『ゴミにしか見えない』ってなんだよ!」
「だって
イヤホンの耳に入れるところについている
カバーでしょ?
指輪ケースに入っていなくて
そこらへんに落ちていたら
俺、間違いなくゴミ箱にポイってするし」
「良かった……
十環の前で
このイヤーピースを落とさなくてさ。
俺にとっては
世界にたった一つだけの宝物なの」
「そんなに大事?」
俺はこくりとうなずいた。
十環に……
しゃべっちゃってもいいかな?
こいつなら……
わかってくれそうな気がする。
俺が、誰にも言えずに
自分の心の中で押し殺している気持ちを。