「赤城くん

 具合でも悪いのかな?」


「あ…… いえ……」


「じゃあ
 次の私の古典の授業は
 受けられるんだよね?」


 いつも幽霊のように存在感が薄い女
 山岸先生。


 なぜか今は
 口裂け女並みに口角を上げ
 妖怪のように濁った瞳で微笑んでいる。


 こ……

 怖え……



「も……もちろん受けます。 

 古典好きですから」


 俺が一番嫌いな科目とは言えず
 面接の練習で習得した
 その場しのぎの笑顔を
 なんとか作ってみた。


 満足そうに微笑んで
 戻っていく先生。


 口裂け女が
 女子たちを追い払う魔術でも使ったのか
 俺を取り囲んでいた女子たちが
 自分の席に戻っていった。


 静かになった自分の席に座り
 頭を抱え込む。


 6時間目の授業なんて受けていたら
 十環との約束の時間に
 絶対に間に合わないし。


 俺の大事な宝物も
 十環に会って
 返してもらわなきゃいけないし。


 もう……

 ダメだ!!!


 俺は座ったまま
 体中の力が吸い取られたように
 自分の机に
 ぺたりと右の頬をくっつけた。