弟に兄らしいことが
 できなかったなんて……

 まるで
 弟さんがもうこの世に
 いないみたいな言い方じゃん……


 もっと弟さんのことを聞きたかった。


 でも
 何かを思い出しているかのように
 遠くを見つめる総長の瞳が
 悲しく光った気がして
 俺はこれ以上、聞くことができなかった。


「さてと。

 十環、次は素手の実践をするぞ」


「はい」


「で、これが済んだら
 十環はもう帰れよ」


 俺は、素直にうなずいた。


 だけど本当は
 あんな家に帰りたくなんかない。


 俺についた嘘を隠し通すために
 ニコニコと表面上笑っている
 育ての親がいるあの家なんかに。


 そして眠って目を覚ましたら
 また、俺をいないものとして扱う集団の中に
 行かなければいけない。