「え?
……これって?」
「俺の大事なものだからさ
絶対に無くすなよ。
明日、絶対に返してもらうからさ」
今日会ったばかりの十環に
俺の宝物を預けて大丈夫かって
内心ドキドキしている。
もし明日
十環が俺に会いに来てくれなかったら……
俺の宝物を
ポイっとゴミ箱に捨てられたら……
そんな不安もあるにはある。
でも……
それでも俺は
こいつとまた会いたいって思う。
体中に針を突き刺したハリネズミのように
人を寄せ付けない鋭い瞳。
十環の鋭い瞳の奥の奥に
泥のように濁った心の闇が
隠れている気がしてしまうのは
気のせいだろうか。
俺が抱え込んでいる苦しみを
十環ならわかってくれるような気がして
気づいたら俺の宝物を手渡していた。
『俺の宝物を返すため』っていう
理由でもいいから
明日必ず、俺に会いに来てほしくて。
『なぜこんなものを俺に渡すんだ?
意味が分からない』という顔の十環に向かって
俺は今日一番の笑顔を向けた。
「明日、神社で待ってるからな」
そして俺は
バス停に向かって歩き出した。
十環を明虹学園に入るよう
説得するために会いに来たことなんて
この時にはすっかり忘れていた。