「俺のこと
 好きになってくれてありがとう。

 屋上に続く階段で出会った時に
 結愛さん言ってくれたよね。

『私を鳥かごから連れ出してくれる
 王子様だったらいいなって』

 俺は結愛さんの王子様には
 なれないみたい」


「十環くん……」


 俺は
 結愛さんを抱きしめていた腕をほどくと
 カバンからキャラメルの箱を取り出した。


 そして
 結愛さんの手のひらに乗せた。


「これって……」


「結愛さんって
 キャラメルが無くなると、
 『食べたかったのに』って落ち込むでしょ。

 その時にすぐに渡せるように
 カバンに忍ばせておいたんだ。

 でももう……

 それは俺の役目じゃないね。

 結愛さん
 キャラメル切らしちゃダメだよ」

 そう言って俺は
 必死に笑顔を作った。


 本当は泣きたかった。

 結愛さんと別れたくないって
 子供みたいに泣きじゃくりたかった。


 でも……


 そんな情けない俺を
 結愛さんの瞳に焼き付けたくない。


 最後は
 『カッコいい』と思ってもらえる笑顔を
 向けたい。


 そう思って
 必死に笑顔を作った。


 結愛さんは
 驚いたように目を見開いた後
 大粒の雫をぽろぽろこぼしながら
 一生懸命笑顔を作ってくれた。


 そして
 俺の大好きで大好きでしかたなかった
 甘い声が俺の耳に届いた。


「十環くん、バイバイ」


 そう告げると
 結愛さんは公園を後にした。


 大好きな結愛さんとの恋が
 終わった瞬間だった。