「自己紹介まだだったよな。
 俺、赤城一颯。 

 桃瀬くんの……

 ああ~もう……!
 面倒だから十環でいい? いいよな?

 俺のことも、一颯って呼んでよ」


「俺があなたのことを
 名前で呼ぶことはないと思います。

 もう、会わない人だと思うので」


「そんな寂しいこと言う前に
 俺の話を聞いてよ。

 すっげー酷い話だから」


 十環は相変わらずの目つき。


 でも
 俺を跳ねのけてまで帰ろうとはせず
 一応、俺の声を
 聴こうとはしてくれているみたいだ。


 案外良い奴かもな。 

 十環って。


「俺さ
 さっき明虹学園の入試面接に行ったわけ。
 
 昨日の学科試験は
 トップの成績だったのに
 学園長に面と向かって言われたんだよ。

 私を30年前にふった男に似ているから
 俺のことを入学させないって」


 俺の話に一瞬
 目を見開いた十環。


 一応
 酷い話だって思ってくれたみたいだな。


 それを隠すように
 鼻を指でこすっている。


「でさ、面接だってわかっていたのに
 俺、学園長にキレちゃって。

 もう完全にダメだと思ったら
 言われたわけよ。

『桃瀬十環が、
 明虹学園に入学するように説得できたら
 入学させてあげる』って。

 わかってるよ。

 俺の都合で
 十環のところに押しかけちゃって
 迷惑だってことはわかってる。

 でもさ、俺
 どうしてもあの学園に入りたくて
 中学の3年間を必死に頑張ってきたんだ。

 諦められないんだよ」


 自分の思いを、十環に伝えた。


 自分の思いを言葉にしながら
 あることに気づいてしまった。


 『俺のワガママに
 十環を巻き込んでいるだけだよな』って。


 俺が、明虹学園に入りたいように
 十環にも思い描く未来があるはずだ。


 そんな十環の思いを無視して
 自分の想いばっかり十環に押し付けて。


 何をやってるんだろうな……


 俺……