「結愛さんって……

 生徒会長だったんですね……」


「意外だって思ったでしょ?」


「え?」


「私なんかが生徒会長で
 この学園は大丈夫?って思ったでしょ?」


「そんなことは……」


「みんなに薦められて、断れなかったの。

 私、自分の意見を言うのが苦手で
 誰かに何かをお願いするのも
 得意じゃないんだ。

 ましてや
 学園のみんなをまとめるなんてできない。

 こんな私が
 本当に生徒会長でいいのかなって
 いつも思っているんだ」


 さっきまで俺に
 太陽みたいに眩しい笑顔を
 向けてくれていたのに。


 俺の目の前にいる結愛さんは
 今にも泣きだしそうな瞳を
 悲しく光らせている。


 結愛さんに
 そんな顔させたくないのにな。


 心から
 笑っていてほしいのにな。


 そう思うのに
 なんて言葉をかけてあげればいいの
 かわからない。


「俺は思いましたけど。

 壇上で祝辞を述べた結愛さんを見た時。

 凛としていて
 それでいてみんなに向ける笑顔が優しくて。

 結愛さんが生徒会長なら
 素敵な学園なんだろうなって」


 俺の選んだ言葉が
 結愛さんの心にどう届いたか不安だった。


 逆に傷つけていたら
 どうしようって。



 その時
 俺の前髪をつまんだ結愛さん。

 
 毛先まで指を滑らすと
 俺の瞳をじっと見つめてきた。


 近い…… 

 近い……


 結愛さんが階段の上の段にいて
 俺の目線のすぐ前に
 結愛さんの瞳が揺れている。


 そしていきなり
 穏やかに微笑んだ。



「十環くん、ありがとう」