「礼音さんって
どうやって今の奥さんと
付き合ったんですか?」
俺の質問に先に応えたのは
店長さんだった。
「十環くん、もしかして……
好きな子がいるとか?」
「へ?
え……と…… まぁ……
片思いですけど……」
「礼音に恋愛相談しても
無駄だからね」
「へ?」
「なんだよそれ、裕章さん!」
「礼音ね、琴梨ちゃんに
6年間も片思いしてたわけ。
礼音がスタイリストになりたての時に
琴梨ちゃんがこの店に来たんだよ。
カットを礼音に
お願いしたいっていってさ。
6年ぶりの大好きな子との再会でさ。
俺は気を使って
2階の休憩室にいて
礼音と琴梨ちゃんの二人っきりに
させてあげたのにさ。
カットが終わったら
連絡先も交換しないまま
バイバイしようとしてて。
『何やってんだよ!』と思って
俺が階段をダッシュで駆け下りて
琴梨ちゃんを駅まで送っていくように
礼音に助け船出してあげたわけ」
「だってさ……
ずっと想い続けていた琴梨と
6年越しに会ったんだぜ。
『彼氏いるかも』とか
『ここで連絡先聞いて
嫌われたらどうしよう』とか
思っちゃうじゃん」
「な。
せっかくのチャンスで
オドオドしちゃう礼音なんかに
恋愛相談しても
無意味だって十環くんもわかったでしょ?
ま、一人の女性を
海よりも深く愛し続ける能力は
ピカイチだけどね。
あ、そろそろ俺
予約のお客さんの用意に入るから。
礼音、十環くんのカラーよろしくね」
言いたいことを吐き出したかのような
すっきりした表情で
店長さんは店の奥に消えていった。
「ま、裕章さんの言う通り。
琴梨と付き合うまでは
俺、ヘタレでダメダメだったし。
でもね
その後は勇気を出して
琴梨に自分の気持ちを伝えたよ。
その時の勇気がなかったら
琴梨が俺の隣にいてくれる幸せは
なかったな。
俺がアドバイスできることと言ったら
『本当に欲しい』って思ったら行動しないと
後で後悔しちゃうかもってくらいかな」