千夏は、用意したお茶とぬか漬けを、無言でテーブルに出した。すると篠原教授はぬか漬けを見て頬を緩ませ、ひとつ口にすると「うん。美味しい」と頷いた。


「木ノ下君、君も食べてみなさい。千夏っちゃんの漬けるぬか漬け美味しいよ?」と、篠原教授は男に勧めた。
すると千夏は「あんたには勿体無いけど、ひとつくらいなら食ってもいいよ!」と高飛車な態度で言うと、男はチラッと千夏を見て篠原教授に話を始めた。


「篠原先生、私に会わせたいと言っていたのは、もしかして、この口の利き方も知らない娘ですか?」

(なに!?)

「ああ、良い子だろ?」

「お世話になった篠原先生の頼みでも、この娘だけはお引き受け出来かねます」

「そこをなんとか頼むよ?
千夏っちゃんだけなんだよ…4年生なのにまだ進路が決まってないのは…」
と篠原教授は男に言うと、またぬか漬けをひとつ食べ頬を緩ませる。

篠田教授の言葉に何も言わない男の代わりに、千夏が
「フン! どうせ4年の夏に就職先も決まってないのに、呑気にぬか床なんて混ぜてんな!って言いたいんでしょ!?」と、男に向かって悪態を吐いた。

「分かってるなら、やるべき事やれば良いだろ?」
と言う男に、千夏は悔しくて堪らなかった。


(何も知らない癖に…
何も知らない癖に!
偉そうな事言わないでよ!?
私だって頑張って就活したわよ!
いくつも内定だって貰った。
有名企業からだって…いくつも…いくつも…
でも、全部お兄ちゃん達が…
勝手に断って…
私の邪魔するんだから仕方ないじゃ無い!
これ以上、私に何が出来るって言うのよ!?)


悔しさで目頭が熱くなるのを、千夏は唇を噛んで必死に耐えていた。