千夏は大手企業から幾つもの内定の通知を貰っていたにもかかわらず、千夏を溺愛する兄達にそれを阻まれ未だに内定してる企業は1つも持っていなかった。


「あんたは知らないだろうけど、ぬか床は生きてんの!!
この熱い中、放って置くと人間と一緒で死んじゃうんだから!
毎日、美味しくなる様にかき混ぜて、呼吸させてあげないと、死んじゃうんだよ!!
1日でもサボると、子供と一緒で拗ねちゃうの!
手を掛けてあげたらそれだけ美味しくなるんだから!
でも、あんたには分かんないよね?
あんた独身でしょ?
その能面みたいな顔じゃ結婚どころか、彼女さえ居そうに無いもんね!」

「お前っ…」


この時、初めて男の表情が一瞬だけ変わった。


(ふん!やっぱり図星か?)


険悪な空気が流れつつある中、それを止めたのは篠原教授の一言だった。


「ねぇ、木ノ下君?
千夏っちゃんは本当にいい子で、一緒に居ると面白いと思うんだよ?」と言って篠原教授は男に微笑んだ。
その微笑みに、男は断れないと思った様で懐から名刺を出すと千夏へと差し出した。


「明日、10時にここへ来い! 話だけは通しておいてやる!」

「はぁ? 私、行かないよ!
あんたみたいな奴に、借りなんて作りたく無いし!」

「じゃ、これからも親の脛齧って、過保護な兄貴達に守られて生きていけば良い。
父親同様兄貴の方もかなりのやり手らしいからな?
お前の面倒ぐらい一生見てくれるだろうよ?」

(お兄ちゃん達に守られて…
そんな事…)


昨日、その過保護の兄達から千夏は愛の告白を受け逃げ出したばかりだった。その為、男の言葉に千夏は動揺を隠せ無かった。