「考えただけでも、恥ずかしくて緊張して死にそう!」
確かに、紗香はふっちーの前では普通の会話もアヤシイってもんだ。
「でも、好きになったら告白なしでは最終形態に行き着かないよね?」
「……え、待って……むっちゃん……告白するの?」
「するよ」
当たり前でしょ?って顔でむっちゃんはそう言った。
「え、いつ、いつ、いつ!?」
「さぁ、紗香が告ってからにしようかな」
「え、ずるい!ちょっと!」
「はは!嘘だよ。だけど、どっちが先とか後とかではなく……自分のタイミングでするかな」
にっこりと笑ったむっちゃんは
優しくも、正々堂々と
紗香に宣戦布告をした。
それに、紗香がどう出るのか
違う感情まで混ざってしまいそうになる私は…むっちゃんみたいに真っ直ぐではない。
「私も……私も、このままじゃ“嫌だ”!」
紗香もむっちゃんを見て、そう言った。
二人が暫く視線を合わせると
吹き出して笑った。
この関係が“今だけ”だったとしても
この二人の気持ちに私も……
つい
「“意識してもらう”まで行ってない私はどうしたらいいの?」
って口に出してしまって俯いた。
「それなんだよ、朱里!ちぃこがふっちーを諦めきれない部分。ふっちー、ちぃこの事知らなかったの。ふっちーからしたら“初対面の女の子に告られた”って認識で。だから、ちぃこは告白できる意識してもらって、もう一度って思ってるの」
「それ、凄いな」
「でも、2回目の告白で“彼女”になれた人もいるからね」
コートにいるさっちゃんへ目を向けて、紗香がそう言った。
「ひとまず、朱里は存在を知ってもらうところから……ね?」
存在はどうやって知ってもらえばいいんだろう
それすら分からない私に、告白なんて遠い遠い想像すらつかないそんな位置づけだった。
「ある意味、先に告白するのも賢いのかな」
紗香が私にそう言ったけど
とてもじゃないけれど……
「あ、K高こっち来たよ。朱里、この中にいない?よく見たら?」
紗香に柵まで押され、すぐに奥へと引っ込んだ。
もう、既に私の目は
彼と彼以外をハッキリと認識出来るようになっていて……
後ろ姿だって、分かる。
「また明日……じっくり見るよ。最近ちょっと視力が落ちて来たんだよね」
そう言って誤魔化した。
まだ紗香には、知られたく…
なかった。
それぞれに、色々と思うことがあったのだろう。
その日はそれ以来……誰も、大して話さなくなった。
体育館を出ると、薄暗い校庭をむっちゃんと紗香が並んで歩いている。
「朱里!」
そう呼ばれて振り返る。
ふっちーだ。
「明日も来んの?」
「そのつもり」
「じゃ、月バス明日まで借りてていい?」
「あー、うん。いいよ」
「アイツに貸してもいい?」
「はぁ?又貸しとか……」
ふっちーが“アイツ”と指した方向には
“彼”がいた。
かがんでスニーカーに履き替えている。
彼が顔を上げる前に、慌てて背を向けて
「分かった!じゃね!」
そう言って、むっちゃんと紗香に追い付く為に走った。
心臓が、ヤバーい!!
あの月バス、彼のとこへ?
買って良かった!!
思わず顔が緩む。
振り返って、私を待っていた二人に
「顔赤いけど大丈夫?」
そう言われ……
むっちゃんだけなら、状況の説明も出来ただろうけれど、紗香もいるこの場所では
「そ、そう?」
誤魔化すしか、無かった。
「ふっちー、何だったの?」
「貸してた月バスを返すの明日で良いかって…」
「いいなぁ、私も…明日返ってきた月バス貸して?」
「ダメッ!」
思わず大きな声が出てしまって、二人が驚いて立ち止まる。
「え……何で?」
紗香の怪訝な顔に…
「わ、私も……まだ読んで無くて…」
そう言うのがやっとだった。
「うぃース」
紗香にそう言って横を過ぎて言ったのは…
彼。
「あ、お疲れー!」
紗香が明るくそう返した。
それから……
「あ、朱里!明日な!」
前の彼をチラッと見て、ふっちーが意味深な視線をよこした。
“アイツに貸したからな”そんな視線。
「ちょっ!はい!分かった!」
ふっちーの視線に堪えれずに、ふっちーの顔も見ずにそう言った。
男バスの団体が通りすぎ、再び静かになってから
「あ、紗香…月バスだけど……」
「いいよ、もう。行こう」
ああ、しまったな。
そう思ったけど……
言い訳も思い付かず、話題を変えようと思いめぐらせていたら
「ふっちーって、いつの間に“朱里”って呼ぶようになったの?」
紗香がそう言った。
「あ、本当だ。そうだね、いつからだろう……」
気づかなかった。
ごく、最近だろう…
「……いいなぁ、同高」
紗香がポツリとそう言った。
結局、微妙な空気のまま
土曜日になった。
休日に制服に着替え、お昼ご飯を持って体育館へ。
バスケ部でもないのにアップ時間に間に合うスタンバイ……。
「よう!早いな、お前」
「本当、早く来すぎちゃった」
「何あれ、むっちゃんと石橋まで仲いいわけ?」
あんたを好きで好き友だわ。
なんて言える訳もなく…
「そ、話しやすいからね紗香もむっちゃんも」
「へぇ。ま、今日はほぼゲームだし見てんのも楽しいんじゃねぇ?」
「あ!そっか、もっとルール知るのにSL○M DUNK読んでおけば良かった!」
「バッカ!ルール知らねぇのかよ。何で見に来てんだよ」
「だいたい知ってる、細かいとこがちょっと…ほら、ね?」
好きな人がいるから見てるとか
本人には言えないし、言ったとしても私から言うのは違うし……
「んなら、SL○M DUNKの時からルール変わってっし!」
「え…そうなの?」
「あー…説明してやろうか?」
「いーよ、月バス読むから」
「ルール載ってねぇわ!あ、アイツに貸したからな。今日持って来るって言ってたけど…忘れてたらラッキーだな」
「は?何でラッキー」
「個人的に、返して貰えるじゃん!」
そうか、ハンカチも……
って…
「いや、いいから!もう!」
そう言い合いしていると
「おはよー」
「うぃース、むっちゃんも熱心だねぇ」
ふっちーがむっちゃんにそう言った。
この鈍い男!!
「そうだよ」
むっちゃんはニコリともせずに上に上がって行った。
微妙な空気に気まずいのは、私と紗香だけでもなかったらしい。
「あ、じゃね!頑張って!」
ふっちーにそう言って、むっちゃんの後を追いかけた。
「むっちゃん!」
私がむっちゃんに追い付くと
むっちゃんがため息をついて
「ごめん」と言った。
「……え?」
「今の感じ悪かったかなって」
「え、いや…」
「昨日の帰りのふっちーとのやり取りもさ、朱里は何とも思ってないだろうけど…もやもやしちゃって。ごめん」
…昨日…
あ!
「違うの!昨日ね、ふっちーに貸してた月バス…ふっちーが“彼”に貸したの。それで…そのやり取りをしてたんだけど、紗香もいたから…さ…今もその会話してて…」
私がそう説明すると
むっちゃんはきょとんとした目を向けた
小さくため息をついた。
「恋すると疑心暗鬼で……そっか、そうだよね。ごめん、朱里」
「うん、いいよ…。昨日、ふっちーが来る前に紗香に挨拶して過ぎ去った人がね……私の好きな人なんだ」
「え!?そうなの?……じゃあ……」
「うん、紗香の事が好きなんだよ。あの人……」
「あの人、朱里の事は気づいてた?」
私は黙って首を横に振った。
きっと、覚えてもいないだろう。あの人は……
「あー……朱里も辛いとこだね」
むっちゃんもそう言うと、それきり二人で黙っていた。
暫くの沈黙の後
「ねぇ、やっぱり紗香に話したら?紗香だって協力してくれると思うし……」
私はもう一度首を横に振った。
「自分の振られた相手に、他の女の子をすすめられたら……どう?あの人だって、辛いよ」
「……そう…だね。だけど、朱里はそれでいいの?こうやってK高がうちの高校に来ることなんて、もうないかもしれないよ?そうなると、またどこかで偶然会えるのを待つの?」
そうだ。
結局、こうなっても尚、
“会いたい”と思うから今日も……ここへ来ているのだ。
あの人に“会う”ために。
「会わなければ、忘れられるのかな……」
「どうすれば忘れられるか……なんて、考えてるうちは無理だろうね。どうなるかなんて分からないよ。ね、朱里」
むっちゃんにそう言われ
私は…頷いた。
自分でも分かってる。
このままじゃダメだって、このままじゃ嫌だって。
私を……知って欲しいって。
「月バスでも、ハンカチでも、ふっちーでも、紗香でも何でもいいから、何とか話す機会作るべきだよ」
私が
「うん」
頷くと
「今日中にね」
むっちゃんがそう言って、私の背中を押してくれた。
「おはよー!朱里もむっちゃんもはやーい!」
紗香が笑って、こちらへ向かって来た。
「それと、昨日の事……紗香も誤解してるかも。どのみち、紗香には話した方がいいよ」
むっちゃんが、私の耳元で小さな声でそう言った。
それによって、私とふっちーの誤解は解けるかもしれないけど……
自分が振った相手を私が好きだと分かれば、新たに悩ませるんじゃないかと……
私と紗香の関係はそんな簡単に崩れたりはしないだろうと思いたいけど……
それに、自分の好きな人が紗香を好きだなんて……
結局、それが一番辛くて、私は中々口に出せないでいた。
午前の練習が半分終わった頃、さっちゃんとセイがギャラリーに上がってきた。
「女バスは先に休憩」
バスケのルールを知ってる二人が男バスのゲームを見ながら、説明してくれる。
「K高の17番の子、上手いね」
「あー、オフェンスがね。ほら、花形。あ、ミスマッチ!上手い!」
「ナイスアシスタント」
17番……あの人…だ。
「2、3年では結構いるけど、1年じゃ、うちのふっちーか、向こうの17番だね」
「3年だと、K高の5番ヤバい」
「うん、多分F大のセレクションだって」
「……マジ?」
「いくつか話が来てるって聞いた。うちのキャプテンも。こっちは実業団だけど…でもキャプテンは進学希望」
「あの人、堅実だから……」
さっちゃんとセイが内輪の話をしてる間も
私は17番のプレーをずっと見ていた。
バスケの上手い下手がよく分からない私ですら、彼が……上手いって言われるのは、分かる。
「すごっ!こんな上手かったんだ」
紗香がその17番を見ながら言った。
「今まで、こっちの11番しか見てないからでしょ?」
さっちゃんにそう言われ
紗香が
「さっちゃん!声!」
聞こえる訳もない音域のさっちゃんにそう注意をしている。
「でも本当、格好いい人だね」
むっちゃんが伺うように、紗香にそう言う。
「うーん、そうだね」
「モテてたりして?」
「そりゃモテるでしょ。顔もいいしね……あと、人なつっこいしな」
「へぇ、そりゃモテるね、モテない訳ないね」
「うん、モテてる、モテてる。……だけど、好きな子がいるみたいだよ」
紗香がそう言った。
ズキンと痛む胸に、私は二人の会話を聞いてない振りをした。
「好きな人?彼女じゃなくて?」
「そ、アイツ…結構オープンだから」
紗香は、ふっちーを目で追いかけるのに忙しいらしく
そこからは口をつぐんだ。
オープン……
じゃあ、クラスでは紗香を好きな事を公言してるのかな。
そうおもうとどうしようもなく胸が痛んで、顔をしかめた。
「紗香はさぁ、もしふっちーに好きな人がいたらどうする?」
「どうもしないよ。どのみち、どうも出来てないんだから……」
「確かに!」
むっちゃんがビンゴ!とばかりにそう言うと
自覚している紗香がジロリとむっちゃんを睨み
「もう!分かってる!けど、どうにかしたいと思ってるし……それに……好きな人がいるとか、誰が好きとかは……本人に聞くのが一番。最近、そう思ったんだよね」
紗香はあれからもB子や他のクラスメイトと何かあったのだろうか。
ブーとデジタイマーのブザーが鳴って、男バスのゲームが終わった。
「お昼にしょっか。さっちゃんたちも一緒に食べれるの?」
「うん、今日は長いからね。しっかり食べとく」
セイはいつもしっかり食べてるけど、そう言った。
「何か飲み物買ってくる」
そう言って、一人で下に降りた。
「よう」
靴を履き替えてるふっちーに声を掛けられ、一緒に外に出た。
「見たか?上手かっただろ?」
「ああ、はいはい、格好良かったよ」
「バッカ、俺じゃねーわ、アイツ!」
アイツと言われただけで、かぁっと顔が熱くなって両手で押さえた。
「何か色々……調子に乗ってたなって、俺」
顔を一度上に向け、こっちに顔を向け直すと
「やっぱ、K高行けば良かったかな……」
ポツリ、そう溢した。
このあたりだと、K高はバスケが強い。
少し前は、うちの方が強かったらしいけど。
「……それって……」
「そんな、本気でしようと思って無かったんだよ、バスケ。N高なら簡単にスタメン入れるかなって。実際入れて、調子に乗ってた。アイツ見て……何か色々……」
「うん、分かるよ。私も……K高だったらなって…あ、一緒にしたらダメか。私のような……理由は、アレだね」
「……いや……ソッチ系の気持ちも……分かる」
何となくそうかなと思っていたけど、思わず勢いつけて、ふっちーの方を見上げた。
「ねぇ!それ!」
「あー、何か完璧にタイミング逃して、もういっか、って思ってたんだけど……顔見るとな。ああ、ぶっちゃけ見なくても…何言ってんだろ、俺。……今更感満載。高校入って、モテたけど…何か違うんだよな」
「そりゃ好きってそうだよ、全然違うよ!」
「“告白”されて、色々考えた。中学とは全然違うなって…“付き合う”っていうのが……」
「今更じゃないよ、ふっちー!」
「んじゃ、聞くけど……お前、今俺に“好きだ”って言われたら、どうすんだ?」
「……え、アリじゃない?アリアリ!」
「はっ、虫か」
「はは!蟻ではない」
ふっちーのしょーもないジョークに笑う。
ふっちーでも悩む事に……
ふっちーが言うように中学とは変わったのだと、私も……思った。
「オイ!渕上!!」
誰かの呼ぶ声に、足を止めて振り返る。
そこには、“彼”と紗香……
むっちゃんに、さっちゃんとセイ。
……全員集合だ。
紗香の表情から、このシチュエーションが宜しくないのも……
誤解されてるってむっちゃんに言われてきたことも思い出して
それに、彼と紗香の並んでいる姿を見るのも…キツくて、私は直ぐ様俯いた。
「それ、俺の靴じゃねぇ?」
彼がふっちーの足元を指差し
「お前のこっち」
そう言って自分の今履いてる靴を指した。
彼の指差したふっちーの靴は……
白に赤の……
スタンスミス。
「あ!本当だ、悪い。俺も同じの持ってて、今日はそっち履いてたんだった」
「何だぁ?ヘバッてんの?」
「はぁ?まだ動くっつの!」
そう言って、二人はその場で靴を交換し
私達から離れ、二人でコンビニへと向かって言った。
「赤の……スタンスミス……」
紗香が何かを思い出すようにポツリと溢す。
それに、私は観念したように顔を上げた。
紗香の目が見開かれ
後ろにいた、むっちゃんとさっちゃんをバッと音がするくらい振り返った。
むっちゃんとさっちゃんの顔に
紗香が私に向き直り
「……みんな、知ってたんだ。私だけ、知らなかったの?」
呆然としながら、紗香がそう言って
私は……
「ごめん」
としか、言えなかった。
「今日、言うつもりだったんだよ、ねぇ?朱里」
むっちゃんがそうフォローしてくれたけど
そこから紗香は俯いて、何も言わなくなった。
セイが意味も分からずキョロキョロして
「とりあえず、コンビニ行かない?」
そう言って、漸く私達は動く事が出来た。
私は紗香の隣に並ぶと
紗香の顔を覗き込んで
「……ごめん。言えなくて」
「……私は、朱里には何でも話して来たよ」
紗香は目を合わす事なくそう言った。
コンビニには、ふっちーに、彼、他のバスケ部
私達は微妙な空気のまま、コンビニに入った。
ドリンクのペットボトルが並んだら冷蔵庫の前
白のスタンスミスが目に入り、顔を上げられなくなった。
「あ、ごめん。俺、邪魔?」
そう聞こえて、ゆっくり顔を上げた。
「いえ」
この人はこうやって、認識が無くても…声を掛けてくれるんだ。
冷蔵庫のドアを開けてくれる彼の方は向かず急いで紅茶のペットボトルを手に取ると
一礼してレジへと急いだ。
覚えてる訳無かった。
それなのに……
虚しさを覚える。
レジを待つ私の後ろに彼が並ぶ。
背中が緊張する。
支払いが終わって、コンビニの外へ出ると一息ついた。
はぁ、とても、無理。
話すとか。
コンとペットボトルの底で頭を突つかれ、振り返る。
「オイ、コイツな、月バスの」
ふっちーがそう言って、“彼”を呼び止めると私を指してそう言った。
「え、ああ、後で返すから待ってて。ごめんね借りちゃって」
彼はあの日と同じように微笑むとごく自然に笑った。
ふっちーが気を利かせたのか、何かを企んだのか、先に歩き始め
それに、さっちゃん、セイ、むっちゃん、紗香が続いた。
つまり……
二人、残された形。
「アレ?行っちゃったね」
そう言った彼に、こっちは頭がショートした。
ただ、ボーッと見てた私に
初めて、目が合って固まる。
固まったのは、彼も。
彼も?え?
「え!あ!!あぁー!!」
なぜか彼が驚き、私を指した。
「ちょ、待って、森さん!?」
森?
「違いますけど」
「……違うの?」
「下の名前は?」
「朱里」
「あれ、全然違うな。産まれた時からN高?」
「産まれた時から?えっとこの4月からN高ですけど…」
「あ、そうだな。ど…どういう事だ?」
「分かりません」
彼はスマホを確認すると
「ヤバい、時間がねぇな」
そう言って、ペットボトルの蓋を開けると一口飲んだ。
「ちょっと動揺しすぎた、ごめん!帰りにちょっと話せる?」
何の事かさっぱり分からないけれど、何とか頷いた、
「月バスも返さないと。……えっと、アイツとは…あ、石橋とは中学が一緒なんだっけ?」
彼の口から紗香の名前がでて
またズキンと胸が痛んだ。
「そう、ふっちーも」
「うん、この前聞いた。俺もふっちーとはこの練習で友達になった。ポジション一緒だから、いっつもアイツをマークすんの。上手いよね、ふっちー」
そう言われて、つい吹き出してしまった。
「え、何?」
「ん、ふっちーも同じ事言ってたよ。この3日間、お互いにいい刺激になったんだね」
「……そうかも。3日間見に来てんの?」
「え、あ、うん。ふっちーいるし」
「あ、はーん…そういうこと」
「え!?いや、違うよ、そーゆーのじゃなくて!」
“私じゃなくて”って言えば良かったのかもしれない。
だけど、この人に、紗香がふっちーを好きな事が分かってしまうのは酷な気がして
たた、否定だけに留めた。
「モテそうだ」
彼もふっちーにそう言ったもので
いよいよおかしくなって笑ってしまった。
「あはは!何を言ってるの、ふっちーも…あ…」
名前知らなかった。
「俺?工藤快晴でーす」
彼がふざけてそう言った。
「宜しく、朱里ちゃん」
「宜しく、工藤くん」
私も……そう言った。
彼と話せている不思議と
彼の名前を知って、彼の名前を呼べた事に……
胸が高鳴り
顔が緩む。
色んな感情を取り払ってみると
やっぱり、私は……
工藤くんが好き。
「急ご!」
早足の彼に並んで、走った。
工藤くんと体育館の入り口で別れると、みんなの待つギャラリーへと上り、合流した。
何だか胸がいっぱいであまり食べられなかったけど
さっちゃんが
「大丈夫?」
そう聞いてくれたのに頷く。
「後で……また、話す事になった」
「え!良かったじゃない!」
むっちゃんも喜んでくれたけれど
紗香はこちらを見ずに、焦点の合わない目をしていた。
それをさっちゃんが心配そうに見ていた。
誰かを好きになると……
不安から疑心暗鬼になって
報告のタイミングを間違うと、むっちゃんとちぃこちゃんみたいになって
同じ人を好きになると、むっちゃんとちぃこちゃんと、紗香みたいになって
自分の好きな人が友達を好きになると……紗香とB子みたいになって……
私と紗香は……
どうなるんだろう。
工藤くんの事は
紗香には、言えなかった。
言いたくなかったのかもしれない。
紗香は私に話してくれていたのに。
やっぱり、気分は良くないよね。
それに、自分の事を好きな男子が、私の好きな人だっただなんて
紗香にしても、気まずいよね。
ふっちーと私の事を誤解してたとしても……
ふっちーも紗香に気があるなんて、むっちゃんの手前言えないし
いや、むっちゃんがいなくても……
ふっちーの気持ちを私が勝手に紗香に話すのは間違えてる。
どうしたら、いいのかな……
昼食を終え、さっちゃんとセイがフロアへと下りると
私と紗香とむっちゃんが残る。
それと、気まずい雰囲気。
休憩時間を終えるブザーが鳴り、私達も沈黙のまま、コートへと視線を移した。
ふっちーがコートからニッと笑う。
さっき、私と工藤くんを二人にしたことに対してからかっているのだど、私には分かる。
だけど、その様子が紗香にはどう写ってるのか気になって仕方が無かった。
反対側のハーフコートで、K高も練習を始める。
遠目に目が合ったように感じる工藤くんは……
私じゃなく、紗香を見たのだろう。
そう思うと、胸が痛い。
この痛みを紗香も今、感じたのだとしたら
私はやっぱり、何とかして紗香に説明したいと思った。
どう説明するか頭の中を整理する。
ふっちーの気持ちを紗香に悟られないように話すにはどうしたらいいのだろう……。
「ねぇ」
口を開いたのは私ではなく、紗香だった。