やっと1日が終わり……

話をするつもりだったのに


予想外に練習試合の結果が悪く


「この後、ミーティング」

コーチがそう言った。


うわぁ、最悪。長いんだよ、ミーティング。


何時に終わるか分からないのに、待たす分けにも行かない。

ミーティングが始まる前に急いで朱里ちゃんの方へ走った。



「朱里ちゃん!」


階段で捕まえる。


「ごめん!この後、ミーティング入ったから遅くなる。今度、時間作って!」


「工藤、ナンパしてんじゃねーよ!」

チームメイトからの罵声。

うわ、恥ずッ!

「違うっての!用事だ、バカヤロウ!!」

叫び返して気づく。

バカヤロウって……


熱くなった顔を片手で覆った…



「バカヤロウって……初めて言ったわ。恥ず!いや、朱里ちゃんも恥ずかしいよな、目立つわここ。ごめん」

「あ、うん。大丈夫、ありがとう」

「連絡先!」

「あ、ペン……」

「ごめん、書いていい?」

返すつもりで持ってた月バスのはじっこに 自分の連絡先を書き込んだ。

「サインもらってる人みたい…」

俺の連絡先に目を落とす。

あの時と同じように、俺の視線からは伏せられたように見える、長い睫毛。


「あー、いつか載る側になりたいな」

国体とか、選抜……


見上げる目が……俺に向けられる。

間違い、ないと思う。

高鳴る胸に、名残惜しい。



それより、連絡……くれなかったら
どうしようかと思ったけど


時間もないし、仕方がない。


急いで戻って、着替えて、何とかミーティングに間に合った。



「今の工藤喋ってた子、めっちゃ可愛い」

先輩達がそう話す。

「あ、俺も思った」

「つか、あっこ皆可愛くね?うちの制服の子も」

「誰かの彼女?」



「……いや、俺は借りてたの返したらだけで……」


何も知らない。ついさっき、名前を知っただけ。


可愛いよな、やっぱ。


ここで、何か遮る粉とでも言えたら良かったけど……何も言えず


無駄に焦る。


色々引っかかる事が多すぎる。

それでも……


会えて……嬉しかった。


実在した!

当たり前だけど、そう思った。



それくらい、探したから。


サラサラの髪…

白くて綺麗な手。
笑った顔。



はは!


やっと、見つけた。

そんな、気持ちだった。





ミーティングが終わる頃には暗くなりかけていて

朱里ちゃんはもう家に着いてるだろう。

スマホを確認したけどメッセージは入ってなかった。


……来ない
場合、どうするか……


待つしかないけど…。


返って、飯食って、風呂入って……


メッセージは無かった。


寝るくらいになって通知音にスマホを確認する。


可愛いスタンプ。

続いて

『今晩は、朱里です。今日、体育館でID教えて貰ったのでメッセージしました』


知ってる、知ってる、教えた、教えた。

ホッとしすぎて、脱力。


アイコンが、朱里ちゃんじゃないのが残念。

猫だ。



『連絡、来ないかと思った』

『聞きたい事があって』

メッセが恨みっぽくなって、すぐにもう1つ付け足した。


さも、用事があるからID教えたみたいな。
今度は言い訳っぽくなった。




『何?』

直ぐに返信があった。


『会って、話したい』

『部活の練習の予定があるから、また連絡していい?』



たったこれだけのメッセで緊張する。


OKのスタンプにホッとして
スマホを置いた。



考えたくないけど

朱里ちゃんに彼氏が居ても全然不思議じゃない。


それが、渕上だとしても。


同中だし、クラスメイトで

今日の渕上との会話。


3日連続で、学校が休みの土曜日にまで見に来る……

『ふっちーがいるから』って朱里ちゃんも言った。



でも、どうしても、俺も……

話がしたかった。


彼氏のいる子を呼び出して、二人で会うってどうなんだろ。




再びスマホを持つと

『お疲れ』渕上にメッセを送った。

『俺なりに気づいた事があって、ごめん、喋ってるの聞こえた』

『やっぱり俺も諦められない…というか、気になるから、それを渕上にも言っておくね』

『せっかく友達になったのに気まずくなるのも嫌だから』

『マンツーマン楽しかった!おんなじ1年だと思わなかったし、またやりたい!』



出きるだけ、嫌な感じにならないように
言葉を選んだ。


『俺も楽しかった!またやろーぜ』

と、よく分からないキモキャラのスタンプ。



でも、触れないって事は……

分かってるんだと思う。


つか、朱里ちゃんから聞く……だろうと思った。


もし、朱里ちゃんと付き合ってるなら、朱里ちゃんから聞くだろうと。


まだ付き合ってないなら……

二人で会うのも許されるだろうと思った。


どのみち……



俺と朱里ちゃんは、お互いに、名前すら知ったばかりだ。



『じゃあ、前に会った本屋の前で』

朱里ちゃんにそうメッセを送る。


やっぱり、同一人物だって、確信を持って。


あの日、うちの制服を着てた訳と

渕上と付き合ってるのかを聞こうと思ってた。


もし、“付き合ってない”って言ったら……


まだチャンスはある?


“友達から”とか、幼稚だけどそう言おうと決めてた。

何せ名前すら、知ったばっかりだ。





大きな公園のベンチの横に自転車を停めると

そこに二人で腰を下ろした。



「実は……紗香と制服取り替えっこしてたの。その時にたまたま……あ、傷は治った?」


K高の制服の謎はそう言うこと。

ハンカチの名前の謎は……デザイナー名!

考えたら、そうだよ。ハンカチにペンで書いてるわけじゃないし、そうだよ。バカか、俺。




本当は一番聞きたかった事……。

聞きたいのに、返事が怖くて躊躇う。



“渕上と付き合ってるのか”


「……彼女じゃない」

朱里ちゃんがそう言った。



じゃあ、“友達から”
用意してたセリフ。



でも、もう友達……とか可笑しい。
連絡先も知ってるし……



悩むのが、バカみたいだ。


会えなかった時間は無駄じゃなかった。

ちゃんと、育めてた。


全部が誤解で……

タイミングとか、期間とか……







「好き」


結局、それしか残らなかった。

朱里ちゃんが言ってくれた言葉が全てで


おんなじなんだからそれで良かった。


色々考えたって、不安なのも焦るのも


その、一言で済む。

その一言で賄える。




「俺も、好き」



好きだった。

もう既に。



色んな感情がごちゃ混ぜ。


でも、こんなに分かりやすく、この感情を表現出来るのは

この言葉だけだった。




これから知ってくお互いの情報は。


いつか、情報が、この感情に追い付くだろう。





繋いだ手に力を込めた。


あんなに探したけど



もう探さなくて、いい。


だけど、必死に探して、会えなくて……

会いたくて。

だから……



「好きに」

「なったのかも」

「しれない」

「し?」



ふわっと朱里ちゃんがあの時みたいに笑う。


可愛い名前!


可愛い顔!


こっちの制服も、似合ってる。



今日からは、俺の彼女。















快晴くんは、部活に勉強にと忙しく

私も幽霊部員だった書道部に本腰を入れ始めた。



快晴くんといると、頑張ろうって気になるから


この気持ちは“いい恋”なんだと思う。



彼に取ってもそうだといいなって思ってる。



いい恋が出来ているのは……

紗香はともかく、さっちゃんとむっちゃんの影響も大きいと思う。



さっちゃんは目標に向かってぶれることなく努力している。


むっちゃんも……体育館に通って先輩と一緒にいる姿をよく見かけた。

「来年になったら、体育館での先輩もほとんど見られなくなるから」

そう言ってた。


二人とも、前を向いてる。


それに、私もやっぱり頑張ろうってなるから。




紗香とふっちーは……
少し前の二人が嘘でしょ!?っていうくらいにラブラブだ。


「ふっちーしか視界に入ってないよね」

さっちゃんとむっちゃんが笑う。


「いや、元々ふっちーしか見てなかったじゃん」


「物理的な視界。あの二人近すぎる。見ててこっちが照れるわ。ちゅーでもするのかと思う距離!!」


「何だったんだろうね、あの無意味なあまのじゃく」

「ほんと、あれさえなければ、今頃紗香だってN高(ここ)にいたよね」


「確かに……」


「K高で良かったんじゃない?うるさそうだし」


「確かに!!」



『生!生が見たいのよ、生ふっちーの学ランがぁ!』


なんて叫んでた紗香とは別人のようだ。


せっせとバスケのルールを覚えて、スコアまで付けられるようになった。


F大でマネージャーしようかな。
とまで言い始めた。


K高の制服で、堂々と校門でふっちーを待ってる。



そんな感じなもんで

K高でもN高でもすっかり有名なカップルだ。



お陰で、我が家に入り浸ることも、いつものファーストフード店で項垂れることも少なくなった。



「薄い友情になったもんだ」

さっちゃんが笑う。


「そのうち、ケンカしたら泣きついてくるんじゃない?」


「あー、大丈夫じゃない?」


チラリとふっちーの方を見る。





「大丈夫だ!」



「うっれしそーに」

「今頃、モテてんじゃない?」


私達のからかいに
複雑そうな顔をしたものの……


「俺よりイケメンはいないはずだ。」


とか、調子に乗ってる。



「工藤もモテてるだろ?」

「そうなんだよ、無駄に愛想いいからな、あの人」

「はは!確かに!」


でも、大丈夫。

そう思ってる。










校門で
振り返ってまで見られる。


通りすぎた男子の団体。
ネクタイの色から上級生だろう。


戻って来た。


「ねぇ、誰か待ってんの?」

ニヤニヤと話しかけられ


頷くので精一杯。


「俺ら、呼んできてやろーか?」


「あ、だ、大丈夫……デス」


それ以上絡まれなくてホッとした。


女子生徒はヒソヒソと通りすぎる。


やっぱり目立つな……セーラー服(これ)


快晴くんもこんな気持ちで待っててくれたのかな。
そう思うと申し訳ないような気持ちになってくる。



「あ、工藤の彼女じゃーん!」

何となく見覚えがある男子生徒はバスケ部だろう。


ペコリと頭を下げた。


「え?工藤くんの彼女なの?」

遠慮なく見てくる女生徒に俯く。


好意的な視線じゃない気がして


「……わざわざ来る?」

聞こえるようにそう言われた。




……来るんじゃなかったかな。


そう思った頃に


「朱里!悪い!今日日直だった」

快晴くんの顔にホッとした



「あー、どした?」

「ジロジロ見られて、恥ずかしかった」

「……俺は……見て欲しいくらいだけどね」



快晴くんが、嬉しそうに笑うから


つられて私も笑う。



「……うーん……やっぱ見せたくないような……」

「何それ」


お互いの手の甲が触れると
どちらからともなく、軽く開いた指を絡める。



「今日自転車は?」

「置いてきた、邪魔だし」

「邪魔?」

「そ」



さっきの男子生徒と女子生徒を追い抜いて


「お疲れー」

快晴くんが、繋いだ手を上げて挨拶する。
耳元で快晴くんが

「朱里、笑って」

そう言われて、笑顔を作った。



「見せつけてるだろ、お前」

「勿論!」


快晴くんが楽しそうに笑う。



「何それ」
私も笑った。


「これがやりたかった」

いたずらっ子のような顔でそう言った。



恥ずかしいけど

お陰でちょっと……


好意的じゃなかった女子生徒の目も
好意的になった気がした。




「さて、どこ行く?」

「部活ないの、久しぶり!」

「……テスト休みでしょ?」

「言うなよ。今日だけ!」



私達はとても忙しい。


だから、あんまり会えないけれど……

その分、会えたときが……とても嬉しい。


季節は2回変わって

出会った時と同じ冬服だけど


彼はブレザー。
私はセーラー服。


他高だって分かる。


でも、カレカノだって分かる、そんな距離感。





「あ、そうだ、これ」


快晴くんから渡されたのは

あの日のハンカチ。


「遅いよ!」

そう言ったけれど……


これを返してくるということは
快晴くんも、私達の関係はもう
“大丈夫”だと、やっと思えたんだろうなと思う。



「あと、これも」

そう言って、渡されたのは新しいハンカチ。


「可愛い!ありがとう!」

タオル地にシルバーの刺繍“A”


「探したけど、無かったんだよな、そのブランド」


………無いだろうね。
快晴くんの行くような店には。


「これね、おばあちゃんのなの」

「……えぇー……」

「あはは!」

「何だよー」



「はい、これ」

私も用意してたのを渡した。


「あ、サンキュー」


スポーツタオルだ。
快晴くん、ハンカチ持たないし。



「快晴くん、汗かきだからね。冬でもボトボト……」

「いや、バスケしたら汗かくから。俺そんな汗かきじゃねぇから。ほら、毛穴少な目」


確かに、快晴くんはお肌つるつるだ。


「うん、つるつるだよね。汗かきだから肌綺麗なのかな?」

「汗かきじゃねぇ!」

「気にしてる、気にしてる。色白だしね」

「外連もあるんだけどなぁ。焼けない。つか、室内競技はだいたい白い奴多い。外の部活の奴は10月くらいから、白くなってくるぞ」


「あ、確かにね夏はヤバいくらい黒くなってるね」

「そ、外部はあちこちのかさぶたも痛々しい」

「室内はケガしないの?」

「膝とか足首とか、手とか痛めるのはあるなぁ。後は打撲の青タン。でもバスケは接触するから、相手の肘とか当たったら瞼とか簡単に切れる。でこに歯形付いた奴もいる」


「嫌だ!痛いっ!」


「当たり負けしないように、鍛えます」


少しづつ、快晴くんは体が大きくなってきた気がする。


「また、カッコよくなるね」

「……そんなことを…言う?」


「ん?」

「渕上元気?」

「お、ライバル視ですか?」

「そうだよ」

「頑張ってるよ。熱狂的なファンがついてるからね」

「いや、マジでな」

「そそ、超ラブラブ」

「ふーん……」



「あ、本屋さん寄る?」

「今日はいっかな」

「じゃ、どうしよっか」


他愛もない会話。

私達は、ゆっくり、ゆっくり。




「ちょっとね、ぎゅっとしたいよね」

「あ、うん、どうぞどうぞ」



どちらもあんまり、上手くは言えないけれど。


私達は、ゆっくり、ゆっくり
進んでる。





「ねぇ、何か情報ないの?」


久しぶりの3人。

紗香が私とさっちゃんにそう聞いてくるもので

私とさっちゃんは温く見つめた。


「はぁ、もうふっちーの事は、紗香が一番詳しいでしょ!?」


「そうだけどさぁ。授業中の居眠りとか見たいじゃない!」


「……普通の寝顔見てるんでしょ?」

さっちゃんの言葉にギョッとしたけど


「また違うじゃん!」

と返す紗香に、もっとギョッとした。


「また、忍び込んだらぁ?」

「あ、それいいね!」

「えぇ!?私もう貸すの嫌だからねー!」

「何で!?居眠り工藤見れるよ!?」


それにちょっと心が動いたけど


「そんな勇気ない!それに、うちの制服来たところで、紗香はすっかりふっちーの彼女って顔バレてるから!」

「ちぇーっ」

「紗香って変などこで勇気あるよね。私、K高の校門で待ってるだけで、ジロジロ見られて……居心地悪かった……」


「ああ、何かクラスの女子が、彼女が来てたたら何たら言ってたわ」


「嫌だー……」


「可愛いって言われてたよ」


「マジ、いい人だね」


「単純だな、朱里」


「じゃあ、ふっちーと工藤くんに制服好感してもらったら?」

さっちゃんが半分呆れるように、私達にそう言った。


「工藤の学ラン微妙だね」

「……それは確かに、私もそう思う」



「Wデートも悪くないな、してみるか」

紗香がわくわくして言った。



「ほーんと、紗香も変わるもんだ」

「……だってさ……」



「さっちゃんも髪伸びたね」

「うん」

「むっちゃん見たよ、この前。彼氏といた」

「いやぁ、あそこもスッカリ……」

「ね、私……ホッとしたのに、複雑」


紗香が遠い目をして言った。



「色々あったよねぇ」

「ほんと、濃かった」



「良かったね」

「うん、良かった」



紗香と誤解が解けて良かったと思う。


恋をして知ったのは、辛くて、複雑で

相手の気持ちも、友達の気持ちも、自分の気持ちも、全部蔑ろに出来なくて

苦しくて……


だけど、楽しい気持ち、幸せな気持ちも知ることが出来た。


今ならそれも……経験出来て、そんな自分を知れて良かったと思う。

劣等感から来る嫉妬心も

自尊心も


言葉に出来ない、気持ちも



むっちゃんのような、恋の終わりも


新たな恋も


全部が、良かったなって

今なら……笑い合える。



「むっちゃん、ほんと、いい子だよね」

「うん、幸せになって良かったよ」


「人間関係ってほんと、大事」

「ね、そう思う。この高校で良かったって……思えた」

「あ、私もK高校で良かったよ」

さっちゃんと私は紗香に訝しげな目を向けた。

「あ、ちょっと!ちゃんとK高にも友達いるんだからね!」

紗香が必死にそう言った。

紗香は、すぐに友達が出きるタイプだし、それはそうだと、私もさっちゃんも……疑ってはいない。

だけど、紗香くらい可愛いと……

勝手に敵を作ってしまうこともある。

あのB子ちゃんみたいに。

なまじっか、喋りやすいのが……マイナスに出ることもある。



「高校卒業したら、もう会わない子だっていっぱいいるんだろうね」


「うん、そうだね。同じクラスだから仲良かった子とかいるもんね」




だけど、今この時は……
この世界が全てだ。



他のクラスの子は少し遠い存在な気がするし

他の高校なんて、別世界。未知の領域。



それなのに……

他高の人と付き合う事になるなんて、不思議だな。



まだ一年生の私達には今はまだ

高校生活が終わることなんて考えられないけれど


いつか、高校(ここ)を出たらどうなるのだろう。

その不安を少し抱えながら
毎日を過ごす。


今しか過ごせないような毎日を必死に駆け抜ける。



「テスト勉強するか」

「ヤマしかない、もう……」

「今回の現国範囲広すぎない?」


心も頭もフル回転。


「大会も近いんだよね」

「ああ、そうだ!」


体もフルスロットル。



「高校生って忙しいねぇ」

「ほんと、こんな忙しいと思ってなかった」

「充実ってやつだ」

「リア充ってやつだ」


「高校生って楽しいねぇ」

「充実ってやつだ」

「リア充ってやつだ」


「こんなに幸せでいいのかな」

「紗香~!」

「だってさぁ」

「ま、高校の時の彼氏と結婚する人は少ないよね」

「さっちゃあ~ん!」



先の事は分からない。

だけど、先に向かって努力することは出来る。




「一先ず、テスト」

「うちら、いっつもそう言ってるね」

「多いのよ、テスト、テスト、テスト!」



「これが終わったらデートだ!」

「そうだ!」

「そうだ!恋する乙女ナメんなよ!」

「このエネルギーを発電に使えたら……」

「うちは、でんきだいゼロだな」

「うちは、ガスもいける」

「うち、オール電化」



「………」

「集中!」

「集中!!」





「終わった」

最後の答案用紙を裏返すと、教室を出た。


快晴くんの部活は休み。

午後イチで会える!



ほんと、このエネルギーって凄いよね。

テスト勉強で大して寝ていないのに
全然眠たくない!



待ち合わせの本屋さんの前。

見えた姿に


やっぱり、ちょっと恥ずかしくなって


一テンポ置いて深呼吸。

私に気づいた工藤くんが


人懐こい笑顔を向けた。



「あ、どうしたの、それ?」

快晴くんの手の甲を指差した。

「ん?あ、本当だ。どっかで擦ったんだな」

「私、バンソーコー持ってるよ」


快晴くんが、少し目を開いて
足を止めた。



「貼って……もらおうかな」

「うん」


この手と繋ぐようになっても
何だか緊張してしまう。



「手、綺麗だよな。あの時もそう思ってた」

「そんな事、思ってたの?」


「繋げるとは思えなかったけど、ラッキーって」

「……クールな感じだったのに。さっさと行っちゃって」


「同じ高校だと思ってからな」


「……そうだよね」


「そっちは、違うって分かってたのにな」


「……ごめん」


「森さんを学校中探しまくったのは、俺の黒歴史です」


「あはは!」



バンソーコーを貼った手と
指を絡めて繋ぐ。



「久々にあの公園でも行って、走る!?」

「青春だねぇ。私、自転車でもいい?」

「あ、俺…女子の自転車なら勝てる位だけど、行ける?」

「……嘘でしょ?」

「うちの高校のマラソン大会は常に上位」

「……いるよね、そういう人」

「ごめんね、陸上部」

「……いるよね、陸上部より早い人」

「いやぁ、毎年10位内に一人文科系の奴入んの、何あれ!?」

「いるいる、そういう人!!天性のセンス!!」


「朱里は?」

「……完走を目指してる」

「あははは!練習しようか!」


快晴くんが、腕でカモンのジェスチャーをすると走り出した。


「やだ、止めて!寝不足なのよー!」




ピタリと足を止めて振り替える




「……寝に、行きますか?」


「え、は!?なぁ!?」


多分、凄い顔で凄い色になったと思う。



「寝る、だけだって!」

「寝れるわけないじゃない!?」



「ん?何で?」


絶対分かってて言ってる


「もーっ!」



久しぶりに会うと、恥ずかしい。

でも……

ちょっと、そういうのも……


アリ。