「ねぇねぇ、これ見て!昨日、デート用のワンピースを買ったんだけどね!」



「わぁ〜、めっちゃ可愛い!淡いピンク色が春らしくて素敵〜っ!」



「私も来週デートなの!お願い!私にもデート用の服選んで〜」



朝からデート用のお洋服の話題で盛り上がる教室。



四月の春らしいあたたかな日。今日も私のクラスは恋話をワイワイと話している。



私はそんな楽しそうにおしゃべりしている集団を横目で眺めつつ、静かに指定の革バッグから本を取り出した。



高校二年生になって、もうすぐ一ヶ月が経とうとしていた。



クラス替えをしてからまだ一ヶ月なのに、彼女たちのコミュニケーション能力が高いのか、まるで去年も同じクラスだったかのように笑い合っている。



私も新しく同じクラスになった子とも、少しずつ仲良くなれているし、学校にはとっても楽しく通えていると思う。



でも、私はみんなが今話しているような恋話にはなかなか入っていくことができない。



というか、入っていこうとさえしていない。


私が読む本には、結構な確率で恋愛要素がはいっているんだけれど、いざ現実にそれを求めるかと言われると、私は小説で楽しめればいいかなって思ってしまう。



だって、小説の中の恋愛は大抵はハッピーエンドだから。



そして現実では、そう簡単にハッピーエンドなんて訪れないと、私は気づいてしまったから。



だから、私はもう夢なんて見ない。



憧れの恋をするヒロインには、自分はなれないけれど、そのかわりに小説でキュンキュンすれば大丈夫。



私はそれで十分満足できる。



私、姫内 桃音(ひめうち ももね)は読書が好きなだけのごく普通の高校二年生。



背中まで伸ばされた髪の毛は生まれつき茶色くて、何もしなくても自然とゆるくウェーブを描くから、普段は下ろしていることが多い。



色白な肌に大きな瞳、形の整った顔立ちと周りの人からは「とっても可愛いね」なんて言われるし、告白された回数だって数えきれないほどだ。



でも、私はこんな自分が好きじゃない。



だって、告白される理由が「見た目が可愛いから」なんて私はちっとも嬉しくない。



人の魅力って容姿だけじゃないと思うの。



それなのに、容姿のことしか好きって言ってもらえないなんて、他に魅力がないって言われているのも同然じゃない?



だから絶対に告白されてもOKとは言わない。



たとえ学校一かっこいい人でも、なんでもできる完全無欠の人でも。



それに二度と、私は恋したり、付き合ったりしないって決めたの。



もう、「好き」なんて言葉、私には信じられないよ……。


「おっはよー、桃音!」



後ろから大きな声で呼ばれて慌てて振り返ると、そこには親友の真凛が立っていた。



「真凛、おはよう」



私が声をかけると、真凛はセミロングの髪の毛をふわふわとゆらしながら、笑顔で駆け寄ってきてくれた。



「今は何の本読んでるの〜?」



「これはフィギュアスケートの話だよ。幼なじみの男女二人がフィギュアの世界を通して、切磋琢磨しているうちにいつの間にか恋が芽生えてきて……みたいな話!まだ半分くらいしか読んでないんだけど、あと三日くらいで読み終わるからそのあとでよかったら貸すよ」



「わぁ〜、ありがとうっ!私この本最近本屋さんで見かけたよ。発売したばかりなの?」



「うん、先週発売した本だよ」



「読むの楽しみ〜!あれっ、一時限目って英語だっけ!? 宿題終わってないかも!ちょっとやってくる〜」



バタバタと自分の席に走っていった彼女を見て、私も英語の予習でもしようかなと教科書を開いた。


彼女の名前は、立花 真凛(たちばな まりん)。



高校一年生のときに同じクラスになって、彼女が一人だった私に声をかけてくれて「よかったら友達になろう!」って言ってくれた。



人見知りな私は自分から話しかけることができなくて、周りにどんどんグループができていくのを焦りながらながめていただけだったから、彼女に話しかけてもらえて本当に嬉しかった。



そのときから、私はずっと彼女と一緒に行動している。



静かな私とは対照的に明るくて常に元気いっぱいで料理部とテニス部の両方に所属している彼女だけれど、実は大の読書家なんだ。



学校ではあまり読んでいる姿が見えないけれど、家にはたくさんの本があって前に遊びに行かせてもらったときは、二人で黙々と本を四時間以上読み続けた。



どちらかというと私たちは正反対な性格だけれど、読書が大好きという気持ちで私たちの絆はより強固なものになっている。


「そういえば、昨日駅前の本屋さんに寄ったんだけど、そこにめっちゃイケメンの店員さんがいてね!」



化学の教科書とノートを持って、科学室へと向かっている途中で真凛が目をキラキラさせながら話し始めた。



「駅前のって、新しくできたところ?もう行ったの?」



「もっちろん!どんな本屋さんなのか、品ぞろえとかもチェックしたかったから」



「それでどうだったの?」




「もうすごかったよ!いつも行ってる本屋さんはちょっと古めの本が売ってなかったりして、わざわざ取り寄せていたんだけど駅前のところはありとあらゆる本があって、二時間くらい歩き回っちゃった!」



「そうなんだ!私も行ってみようかな〜」



「じゃあその時はさそって!私もまた行きたいし、桃音のおすすめの本紹介してほしいし、あとあのイケメン店員さんに会いたいから!」