そんな考えをし始めると、また暗闇に取り憑かれそうになってくる…


不安になる


碧依は台所の引き出しから鈴バアのレシピノートを出すと、嬉しそうに広げながら明日のメニューと買い物の材料を考え始めている

こんな時は碧依すら遠くに感じる



あの日…


あの高校最後の年


ババアが俺を実家に呼び寄せた


あの日が、また俺を不安にさせ始める…











「緋色、わざわざ来ていただいて申し訳ありませんね…」

嫌な笑顔で紅茶に口を付けた

その日は珍しく親父までいて、違和感さえ感じる

「あなた…あなたはこの愛人の息子を、会社の跡取りに考えていらっしゃるのでしょ?」

「まだ決めてはいない…何なんだ、突然」

親父の顔は、明らかに俺と同じ、不機嫌を表していた

「わたくしはね、緋色は相応しくないと申し上げますわ」


年に似合わず、真っ赤な口紅がゆっくり動くのを、スローモーションの様に感じた


「何なんだよ…」

俺の中でじわじわ黒い渦が広がっていく…









「だってね、あなた…この子、あなたの子じゃないんですのよ?」