『いい?レティシアちゃん。何か嫌なことされたら、すぐに帰ってくるのよ?私たちのこととか、コヴィーの名前とか、考えなくて良いからね?』





馬車に乗り込む前、アメリアさんに何度も言われた。



もとより長く滞在するつもりはなかった。
少しパーティーに参加して、キース公爵家の現状を見たら、帰ろうと思っていたのだ。


だから、今日のドレスは目立たないように黒のドレスにした。


アメリアさん曰く、真っ黒という訳にはいかないらしい。
シフォン素材でできたドレスで、その下には胸から足首まで透けないように別の素材が重ねられているが、肩周りから腕は全部肌が透けて見えている。



頭には同じ素材で作られた幅の広いカチューシャがつけられている。


…なんだか戦いに向かうために武装している気分になり、不思議と不安な気持ちが和らいでいた。