「それは……
 すっごくショックだったから。

 お揃いのネックレスを返されたのが。

 それに紫音くんに言われた。
 赤城さんと付き合っているって」


 そうだった。


 私が、
 七星くんのことを忘れるって誓ったから、
 紫音くんが嘘をついてくれたんだった。


「俺さ、あまりのショックで、
 食べ物がのどを通んなくなっちゃって、
 笑顔も無理やり作ってた。

 もう、どうでもいいって
 自暴自棄だったんだよね。

 そんな俺の隣にいて、
 励ましてくれていたのがクルミ。

 赤城さんのことを好きなままでいいから、
 付き合ってって言われて、
 それもいいかなって、
 その時は思っちゃったんだ。

 だけど……
 俺って本当に最低で……

 俺の隣にいるのが、
 赤城さんならいいのにって考えちゃって。

 だから花火大会の後、クルミに言ったんだ。 
 やっぱり付き合えないって。

 でも、クルミが別れてくれなくてさ。

 夏休みが明けてからかな、
 一颯先輩が好きになったって言って
 別れてくれた時には、正直ほっとしたけどね」


 ボタンの掛け違いみたいな
 恋だったんだ。


 お互いに好きで、
 付き合えるチャンスは山のようにあったのに、
 勝手に勘違いをして、ダメになった恋。


『今からでもやり直せるよ』


 右のハートに住む天使が、
 ニコニコ微笑んでくれている。


 でも左のハートに住む悪魔が、
 頭の中がガンガンするような
 キンキン声で怒鳴った。


 『もう終わっているでしょ!
 七星くんへの思いは、
 もうとっくに、なくなっているでしょ!』


 そうだった。


 これは過去の恋。


 そして目の前にいる七星くんは、
 私がピリオドを打った恋の相手。


 そのことを、きちんと伝えなきゃ。


 でも……

 自分でさえ、
 本当にこの決断でいいのか自信がない。


 小5からずっと片思いをしていて、
 穏やかで、誰にでも優しい七星くん。


 お母さんが亡くなった時だって、
 手作りのお守りをくれて。


 『また、りっちゃんの笑った顔が見たいな』
 って微笑んでくれた。


 七星くんとの思い出は、
 宝石なんかよりもキラキラしていて、
 亡くしたくない大切なものだけど、
 私の心の奥の奥で誰かが叫んでいる。


 『完全に終わりにしよう。
  七星くんとの恋は』って。


 私は瞳を閉じ、
 七星くんとの思い出がつまったアルバムを
 閉じる決心をした。


 涙があふれてきて、
 私の意志なんて無視するかのように
 流れていく。