階段を駆け下りると、洗面所で軽く顔を洗って急いで歯磨きをしていく。


慌ただしい音に気づいたようで、お兄ちゃんが顔を覗かせた。


「おお、おはよう」


きょとん顔のお兄ちゃん。

私は口をゆすいで早口で伝えた。



「おはよう。私寝坊しちゃってもう出かけなきゃいけないからご飯作れないけど何か食べてね」


「え!?あぁ…ごめん!起こしてやればよかったな」


「走っていけば何とか間に合うから。ちゃんと食べてよ?」



お兄ちゃんは悪くない。

締め切りも迫ってて、時間に気づかないくらい集中していたんだろうから。

それよりも時間を忘れてご飯を抜いてしまうことが多いから、そっちの心配をしている。


「じゃあ行ってくるね!」


「ちょっと待てって!車で送るよ」


そう言いながら、出かけようとする私の二の腕を引いた。

覗き込むような猫背で…

八の字眉毛で…


「いいから…大丈夫だから」

「雨だって降ってるし危ないって。いいから待ってろ」


優しくくしゃっと笑って…

私の頭をぽんぽんってして…


車の鍵を取りに行くお兄ちゃん。


このとき私が全力で断ってたら、そもそも寝坊なんてしなければ、引っ越してこなければ、運命は違ってたのかな…?

たらればだけど、どうしても考えてしまう。

一体いつに戻ればよかったのかなって…