車に乗った途端、雨は強く降り始めた。

正直、走って行ってたら大変だっただろうなと思う。



「締め切り間に合いそう?」

「うーん。あとは出だしだけなんだけどな。どうも納得いかなくて」

「そっか…」

「始まった瞬間に、光が降り注いでくるような曲にしたいんだ」



ピアノや作曲に詳しくない私が、安易に頑張ってねとか大丈夫だよとか言えない。

親の七光って言葉で簡単に片付けちゃう世界の中で、苦労してきてるのを見てるから…



「楽しみにしてるね!できたら聴かせてね」


「おう!」



ありきたりで単純なことしか言えない私に、お兄ちゃんは優しい顔を向けてくれる。


信号が赤に変わって停車した。