ー12月某末日、空港ー





「涼太、ありがとう、送ってくれて!」

「ああ…。」


腕組みして、眉間にしわ寄せている俺に苦笑いの真人。


「も~!最後くらい、笑ってよ!」

「最後じゃないだろうが。」

「あ、またそうやって揚げ足とって!今回は最後でしょ?」


「またすぐ戻るからさ!」とパスポートを軽くあげた。


…真人が突然帰って来た事は事実。それは俺も知らなかった事で。
いつも瑞稀への手紙と一緒に入っている、『俺への手紙』にもそれは記されてはいなかった。
真人の手紙を読みながら、何となく予感していたのも事実。『帰ってくんじゃない?』って。

まあ…瑞稀には『当分かえってきそうもねーな』って相槌してたけど…それは瑞稀に変に情報を与えて期待や不安をさせて負担になり兼ねないと判断したからで。


「真人さ…事前に、咲月の存在分かってた?」


あまりにもタイミングがタイミングだったから。どうしてもそこを疑ってしまう。


『俺さ、数週間後にまた旅に出るから』


帰って来た初日、再び温室に現れた時に『瑞稀には内緒ね!』と笑っていたし。


けれど、俺の疑いはいつもの懐っこい笑顔で消されて、真人は何も言わない。


「涼太…瑞稀の事よろしくね?」

「分かってる。別に真人に言われなくても、瑞稀に関してはよろしくするから。」

「あっ!瑞稀って言っちゃダメ!」

「どっちなんだよ…」


飽きれた俺に今度は快活に笑う。


「あ~あ!咲月ちゃんも一緒だったら超楽しかったのに!」

「…本気だったわけ?」

「そりゃね。可愛いもん、咲月ちゃん。瑞稀には負けるけど。」

「何か、線引きおかしくない?それ。」

「おかしくないよ!涼太、あの二人をよろしくね?」

「それ、さっき言った。」

「さっきは、『瑞稀をよろしく』って言ったの!揚げ足取らない!」


「も〜」と少しだけ口を尖らせ面白そうに笑う真人の表情が、微かに鋭さを帯びた。


「…あの二人にとってはさ、これからが大変でしょ?」


まあ…ね。


「瑞稀も覚悟はしてると思うけど。」

「うん。それは充分伝わったけど。でも、支えは絶対に必要だから。」


その言葉と同時に、抱き寄せられる身体。


「…よろしくね?涼太。」


痛い程俺に絡み付く長い腕。


「わかってる」


言葉少なにそう言ったら、耳元でふふって笑い声が聞こえた。