◇
…久しぶりにこんな風に「楽しい」って笑ったかも。
「瑞稀様、今日から新しくメイドとして入ります、鳥屋尾です。」
最初、薮とこの部屋に俺に挨拶に来た時、緊張してたのもあるんだろうけれど、愛想一つ振り撒かず、淡々と俺に挨拶した鳥屋尾咲月。
その表情が印象的で。
何となくね、『俺みたいな顔してんな』と思った。
特にその場の事に感心もなく、ただただ、目の前に置かれた状況を受け入れて行けばいい。
『心はここにはない』
そんなイメージ。
何となく…引っかかった。
まあ…でもね。
この屋敷でメイドとして働くのにさ、別にそんなに無駄に愛想振りまいてニコニコしている必要ないしね。
メイドの仕事はそこじゃない。
この屋敷をいつも住み心地が良い良い様にしておく事だから。それは本当に大変な仕事だと俺は思っている。だから、多少愛想なんてなくたって良いんじゃない?って。そう言うキャラの人ならば、それで良いんじゃないかって。
…とりあえず、ずっとこの屋敷で働いてくれている坂本さんとうまくやって、長続きしてくれれば良いけど。
初めて圭介が自ら選んで雇ったメイドでもあるしね。
鳥屋尾咲月に関しての第一印象はその程度だった。
けれど。
午後、会社から一旦戻ってみたら、花瓶に花をさしてる咲月の頭に一輪の花。
涼太…だよね。
漠然と込み上げた霞のかかった感情。
涼太がメイドの頭に花さしてあげるとか、今まで無かったのに。
と、いう事は、だよ?
何?涼太とはもしかして、普通にやりとりしてんの?愛想良く?
主人の俺にも愛想一つ振りまかないのに?
そんな気持ちをそのままに発した声は自分でも信じられない程、低かった。
驚いて慌てて頭を下げる咲月の反応が何か気に入らない。
…主人が話かけてやってんだから少しは表情柔らかくしなさいよ、上辺だけでもさ。
つい今朝まで、「愛想なんてどうでも良い」なんて思っていたはずなのに、ケンカを吹っかける様な事言い放ってた。
言った後で、「あ~…何やってんだ俺」と思ったよ?
いくらなんでもさ…人が真剣にやっている仕事馬鹿にするとか、あり得ないでしょ。人として。
だから、苛立つ顔をされても、噛み付かれても、それはそれで良いかと思った。
完全に、非は俺にあるわけだから。
そう…思っていたのに。
俺のそんな気持ちとは裏腹に
言われた咲月はただ黙々と俺の脱ぐ上着を受けて、そのまままた、花瓶に花を挿しに戻るだけ。
一向に変わらない顔色。
…何だよ、この手強い感じ。
そう思ったら、俺もちょっとムキになっていて、思わず反射的に手首掴んでしまっていた。
突然の事だったせいか、予期してなかった事態だったのか、驚きの表情に変わる咲月。
…これでもかって位、目が見開いてる。
慌てて去っていく咲月に、ようやく表情を変化させる事が出来たと心が弾む感覚を覚えた。
圭介…今日は忙しくて、外出の着替え、手伝えないって言ってたよな…。
じゃあ、咲月に支度を手伝わせてみようか。
なんて、軽い興味本位で圭介を通して呼び出した。
…言った時はすごい口の端上げて、ニヤニヤされたけどさ。
咲月と圭介を間違えた後だったし。
や、でも、あの勘違いはどう考えても圭介のイタズラでしょ。
昔っからああ言う所、あるんだよ、圭介は…。
まあ…圭介だから、そこは仕方ない。
.
突然の呼び出しに、現れた咲月は息を切らしまくってて。
もの凄いダッシュで来たのが一目瞭然。
あ~あ~…主人の前なのに。
噎せまくってんじゃん。
そんなドタバタなメイド、初めて見たよ?俺。
それにまた、心の中でニンマリな感情が生まれる。
息切れ切れのまま、ふらふらとクローゼットに近づいてってる咲月に、どんだけ任務遂行に真面目なんだよ…なんて思ったらそれも面白くて。
反応見たさに『とりあえず、落ち着こうか』と取っ手を握る手を上からわざと包んだ。
そしたらさ…凄い勢いで真っ赤になって。
ポッと赤くなるとかってレベルじゃないんだよ。
顔でお湯沸かせんじゃないの?って位真っ赤か。
目なんてこれでもかって位に見開いちゃって、涙でウルウルしちゃってて。
すげーパニクってんじゃん。
この人、予測出来ない突然の出来事にとことん弱いな、多分。
そんな結論に達したら、面白くて仕方なくて。
追い打ちかけるようにそっと手をおでこに添えてあげる俺。
そこで、混乱がマックスまで行ったんだろうね。
体が二つにおり曲がるくらいお辞儀して
『体を鍛えます!』
…いや、メイドは体力のいる仕事だと俺も思うよ?
でもね、話の内容云々ってよりも、その反応に俺は満たされたんだと思う。
久しぶりに、心の底から笑ってた。
さすが圭介。
面白い人雇ってくれたわ。
そんな風に思いながら。
.
…久しぶりにこんな風に「楽しい」って笑ったかも。
「瑞稀様、今日から新しくメイドとして入ります、鳥屋尾です。」
最初、薮とこの部屋に俺に挨拶に来た時、緊張してたのもあるんだろうけれど、愛想一つ振り撒かず、淡々と俺に挨拶した鳥屋尾咲月。
その表情が印象的で。
何となくね、『俺みたいな顔してんな』と思った。
特にその場の事に感心もなく、ただただ、目の前に置かれた状況を受け入れて行けばいい。
『心はここにはない』
そんなイメージ。
何となく…引っかかった。
まあ…でもね。
この屋敷でメイドとして働くのにさ、別にそんなに無駄に愛想振りまいてニコニコしている必要ないしね。
メイドの仕事はそこじゃない。
この屋敷をいつも住み心地が良い良い様にしておく事だから。それは本当に大変な仕事だと俺は思っている。だから、多少愛想なんてなくたって良いんじゃない?って。そう言うキャラの人ならば、それで良いんじゃないかって。
…とりあえず、ずっとこの屋敷で働いてくれている坂本さんとうまくやって、長続きしてくれれば良いけど。
初めて圭介が自ら選んで雇ったメイドでもあるしね。
鳥屋尾咲月に関しての第一印象はその程度だった。
けれど。
午後、会社から一旦戻ってみたら、花瓶に花をさしてる咲月の頭に一輪の花。
涼太…だよね。
漠然と込み上げた霞のかかった感情。
涼太がメイドの頭に花さしてあげるとか、今まで無かったのに。
と、いう事は、だよ?
何?涼太とはもしかして、普通にやりとりしてんの?愛想良く?
主人の俺にも愛想一つ振りまかないのに?
そんな気持ちをそのままに発した声は自分でも信じられない程、低かった。
驚いて慌てて頭を下げる咲月の反応が何か気に入らない。
…主人が話かけてやってんだから少しは表情柔らかくしなさいよ、上辺だけでもさ。
つい今朝まで、「愛想なんてどうでも良い」なんて思っていたはずなのに、ケンカを吹っかける様な事言い放ってた。
言った後で、「あ~…何やってんだ俺」と思ったよ?
いくらなんでもさ…人が真剣にやっている仕事馬鹿にするとか、あり得ないでしょ。人として。
だから、苛立つ顔をされても、噛み付かれても、それはそれで良いかと思った。
完全に、非は俺にあるわけだから。
そう…思っていたのに。
俺のそんな気持ちとは裏腹に
言われた咲月はただ黙々と俺の脱ぐ上着を受けて、そのまままた、花瓶に花を挿しに戻るだけ。
一向に変わらない顔色。
…何だよ、この手強い感じ。
そう思ったら、俺もちょっとムキになっていて、思わず反射的に手首掴んでしまっていた。
突然の事だったせいか、予期してなかった事態だったのか、驚きの表情に変わる咲月。
…これでもかって位、目が見開いてる。
慌てて去っていく咲月に、ようやく表情を変化させる事が出来たと心が弾む感覚を覚えた。
圭介…今日は忙しくて、外出の着替え、手伝えないって言ってたよな…。
じゃあ、咲月に支度を手伝わせてみようか。
なんて、軽い興味本位で圭介を通して呼び出した。
…言った時はすごい口の端上げて、ニヤニヤされたけどさ。
咲月と圭介を間違えた後だったし。
や、でも、あの勘違いはどう考えても圭介のイタズラでしょ。
昔っからああ言う所、あるんだよ、圭介は…。
まあ…圭介だから、そこは仕方ない。
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突然の呼び出しに、現れた咲月は息を切らしまくってて。
もの凄いダッシュで来たのが一目瞭然。
あ~あ~…主人の前なのに。
噎せまくってんじゃん。
そんなドタバタなメイド、初めて見たよ?俺。
それにまた、心の中でニンマリな感情が生まれる。
息切れ切れのまま、ふらふらとクローゼットに近づいてってる咲月に、どんだけ任務遂行に真面目なんだよ…なんて思ったらそれも面白くて。
反応見たさに『とりあえず、落ち着こうか』と取っ手を握る手を上からわざと包んだ。
そしたらさ…凄い勢いで真っ赤になって。
ポッと赤くなるとかってレベルじゃないんだよ。
顔でお湯沸かせんじゃないの?って位真っ赤か。
目なんてこれでもかって位に見開いちゃって、涙でウルウルしちゃってて。
すげーパニクってんじゃん。
この人、予測出来ない突然の出来事にとことん弱いな、多分。
そんな結論に達したら、面白くて仕方なくて。
追い打ちかけるようにそっと手をおでこに添えてあげる俺。
そこで、混乱がマックスまで行ったんだろうね。
体が二つにおり曲がるくらいお辞儀して
『体を鍛えます!』
…いや、メイドは体力のいる仕事だと俺も思うよ?
でもね、話の内容云々ってよりも、その反応に俺は満たされたんだと思う。
久しぶりに、心の底から笑ってた。
さすが圭介。
面白い人雇ってくれたわ。
そんな風に思いながら。
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